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日本医科大学付属病院 副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生

こちらの記事の監修医師
日本医科大学付属病院
副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生

まんせいすいえん慢性膵炎

概要

何らかの原因で膵臓の慢性的な炎症が続くことで、本来は食べ物の消化を助ける膵酵素が持続的に活性化され、ゆっくりと自身の膵臓を溶かしてしまう病気。炎症が繰り返されると、膵臓の正常な細胞が壊れて減っていき、代わりに線維が異常に増えて膵臓全体が硬くなる。代償期と呼ばれる初期の頃は激しい腹痛が発作的に起こり、進行して膵臓の機能が失われる非代償期には治まるのが特徴。一度発症すると基本的に治ることはなく、適切な治療によって病気の進行を遅らせることが大切になる。飲酒が関係するケースが最も多く、性別では男性、年齢では40~50代で発症することが多い。非常にまれではあるが遺伝が原因の慢性膵炎もあり、その場合は若くして発症することもある。

原因

最も多いのは、大量の飲酒を続けたことによるアルコール性慢性膵炎。男性患者の約7割がこのアルコール性だが、女性患者では3割に満たない。これは、女性よりも男性のほうが酒を飲む人が多いことが関係するとされる。女性は原因不明の特発性慢性膵炎が約5割を占める。ただし、過度の飲酒習慣がある人では(1日に日本酒4合、ビール中瓶4本が目安)、男女で膵炎の発症頻度は変わらない。そのほか、胆石脂質異常症、膵管の形態異常、副甲状腺の異常などが原因として挙げられる。極めてまれなケースに遺伝性慢性膵炎もあるが、気をつけたいのは血縁者に慢性膵炎の患者が多い場合であり、基本的には遺伝を心配する必要はない。なお、飲酒のきっかけや、自律神経の不調を招くストレスも、膵炎と深く関係することがわかっている。

症状

主な症状は、おなか(みぞおち)や背中の発作的かつ激しい痛みで、飲酒、食べ過ぎ、脂肪の取り過ぎ、ストレスが引き金となることが多い。治まっても繰り返し起こるのが特徴だが、5~10年たつと細胞の破壊が進み、痛みはかえって落ち着く傾向にある。その反面、消化酵素やインスリンの分泌が悪くなり、消化不良による下痢、脂肪便、体重減少などの症状が現れたり、糖尿病を発症したりする。中には、糖尿病になってはじめて、慢性膵炎であることが発覚する人もいる。アルコール性ではない慢性膵炎では、ストレスが発症に深く関係していることがあり、自律神経の不調から下痢や便秘、不眠、頭痛や肩凝りを訴えやすい。また、慢性膵炎の患者の約半数に膵石が見られる。膵石が膵管に詰まると腹痛が悪化するため、取り除く治療が推奨される。

検査・診断

慢性膵炎は痛みに特徴がある病気のため、まずは「どこが、どんなふうに、何をしたときに痛くなるのか」などを問診によって明確にする。そこで慢性膵炎が疑われたら、血液検査や尿検査で消化酵素の値が上がっていないかを調べる。すでに進行していると消化酵素の値は上昇するとは限らないため、腹部エックス線検査、超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査も合わせて実施。膵臓の炎症の程度や腫瘍の有無などを調べ、さまざまな検査結果から総合的に診断を下す。より詳細な検査としては、内視鏡を用いて胆管や膵管を観察して胆石の有無などを調べるERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)、先端に小さな超音波のついた内視鏡で胃や十二指腸から膵臓を調べるEUS(内視鏡超音波)がある。特にEUSは、胆石の有無、膵管の変化を捉えやすく、また線維化を推測できる可能性があるため、軽度の慢性膵炎の診断に生かされることが期待されている。また、正確な診断が難しい場合にはEUSを通して膵臓に針を刺して細胞や組織をとる。より正確な診断ができるため、他の膵臓の疾患との鑑別に有効である。

治療

禁酒、禁煙を基本として、病気の進み具合や症状に応じた治療を行う。例えば、膵臓のダメージが軽度な代償期は、腹痛が主な症状として現れるが、数日間の食事制限で済んだり、鎮痛剤や炎症を抑えるタンパク分解酵素阻害薬の使用で静まったり、程度により対応が異なる。膵管狭窄(狭くなること)が原因で痛みが生じているときは、膵管の出口を緩める薬や内視鏡を使って膵管にチューブを挿入することで膵液の流れを改善。膵石が原因なら、内視鏡を使った除去、膵石に強力な超音波を当てて石を砕くESWL(体外衝撃波結石破砕療法)、外科手術などを行う。症状が進行して非代償期になると、膵臓の機能自体が低下し、消化酵素が十分に分泌されなくなる。それに伴う下痢や脂肪便といった消化不良の症状には、膵消化酵素剤、胃酸の量を減らす薬を投与。糖尿病を発症した場合はインスリン治療を開始する。

予防/治療後の注意

大量のアルコール摂取が原因となることが多いため、日頃から適切な飲酒量を心がけることが予防につながる。ストレスも非アルコール性の慢性膵炎と関係が深く、ストレスや疲労をためない生活を送ることが大切。これらは、発症後にも同じことがいえる。特に激しい腹痛を伴う時期は要注意。腹痛発作を繰り返すと病状を悪化させることにつながるため、飲酒や喫煙はやめるほか、食事面では1度に食べる量を少なくし、脂肪を取り過ぎない、香辛料などの刺激物は控える、タンパク質を十分摂取するといったことに気をつける。ただし、進行した慢性膵炎ではかえって、消化不良による栄養不足が懸念される。腹痛を繰り返すことがなくなったら、脂身の少ない魚、オリーブオイルなどの植物油を少量など、必要量の脂肪を取ること。

日本医科大学付属病院 副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生

こちらの記事の監修医師

日本医科大学付属病院

副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生

1986年日本医科大学卒業。1992年同大学大学院修了。同大学多摩永山病院外科部長、病院長を経て、2018年に同大学消化器外科主任教授、同大学付属病院副院長に就任。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。