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綾田 潔 院長の独自取材記事

綾田医院

(高松市/岡本駅)

最終更新日:2022/06/30

綾田潔院長 綾田医院 main

高松市の南西部、讃岐山脈の北麓に広がるなだらかな丘陵地帯にある香南町で診療を続ける「綾田医院」。3代目にあたる綾田潔院長の祖父が1932年に開設した長い歴史のある内科医院だ。以来現在まで、地域のかかりつけ医として近隣住民の健康を見守り続けている。綾田院長は、少子高齢化と格差拡大による地方の衰退が進行する中、患者の健康だけでなく生活基盤の確立にも注目し、診療を行うだけでなくサービスつき高齢者向け住宅および通所介護施設と、訪問介護事業所を設立。医療と介護が一体となったサービスを提供できるよう努めている。現在は高松市医師会のIT部長として患者のデータベース作成にも携わっているという綾田院長に、いろいろと話を聞いた。

(取材日2021年12月23日)

医療以前に必要を感じた生活基盤の整備

先生がこちらの院長に就任した経緯を教えてください。

綾田潔院長 綾田医院1

当院は祖父が開業し、その後を父が継ぎました。そのため自分も物心ついた頃から、いずれは医師になるのだろうと感じていました。僕は幼い頃からものづくりが好きで、小学生の時には自動車や船の模型を動かすためのラジコンを自作したりしていました。中学高校になるとパソコンにハマってプログラミングをしたりと、オタクっぽいところがありました(笑)。大学に入ってからは、手術で病気の治療を行うことができる心臓血管外科を専門にしたいと思いましたが、研修できる病院が国内に少ないことから、最終的には内科を選びました。岡山大学卒業後は、大学の第一内科に入局して関連病院で勤務した後、大学に戻ってピロリ菌やボツリヌス菌の研究をしていました。でも父が病気になってしまい、この医院を継ぐために戻ってきました。

院長に就任してどんなことを感じましたか?

こちらに帰ってきた2010年頃は、少子高齢化の進行と格差の拡大が顕在化してきた時期でした。例えば、寝たきりで通院できない状態なのに、雨漏りのする家に身寄りのないおばあさんが1人で住んでいて、年金も少なく医療費もままならない状態だったり……。それまで大学病院や研究室にいて、お金の苦労といったら研究費の捻出くらいしか経験したことがなかった自分にとって「今の世の中は一体どうなっているんだ?」と強い疑念を感じました。そして治療以前の問題として、介護なども含めた患者さんの生活基盤を整備することから始めなければいけないなと思いました。

それでサービスつき高齢者向け住宅と訪問介護事業所を造ったんですね。

綾田潔院長 綾田医院2

まず祖父が生前住んでいた場所を整地し、2012年に介護施設を開設しました。その2年後に訪問介護事業所を設立して、医療と介護とを一体化して提供できるようにしていきました。開設した当時はまだ「地域包括ケア」という名称もあまり一般的ではありませんでしたが、その後、現在に至るまでに同じような施設が各地にだいぶ増えてきたように思います。

顕在化した医療の問題点と将来への取り組み

現在の診療内容に特徴はありますか?

綾田潔院長 綾田医院3

よろず相談所のような感じですね(笑)。患者さんの多様な訴えに対して、できる範囲で対処しています。8〜9割はお年寄りなので、慢性疾患をお持ちの方がほとんどです。中には末期がんや慢性心不全の方も多く、ターミナルケアの患者さんも少なくありません。ここでは内科全般を扱っていますが、自分が強い分野を挙げるとしたら消化器内科でしょうか。大学の第一内科では肝臓の疾患を専門に診ていましたが、その関連で糖尿病の治療についても学びました。また医局の別のグループから循環器の疾患についてもいろいろと教わってきているので、内科のことは一通りカバーできていると思います。

今、課題になっているのはどんな事柄でしょうか?

今でも問題山積ですが、今回の新型コロナウイルス感染症の流行によって、それ以前からの問題点が顕在化されるようになりました。その1つが貧富の格差拡大です。一握りの富裕層は、自費で先進的な医療や介護を受けることができますが、その一方ではお金も時間もなく健康に気を配ることができない人も増えています。その間にいる中間層も含めて、医療というサービスをどう配分していくのかという点です。もちろん日本の国民皆保険制度は、先進国の中でも優れたシステムとして維持していくべきだと思いますが、その中で地域の皆さんが安心できる医療を、どうやって多くの人たちに提供してくかが将来に向けた課題であると思います。当面の問題である新型コロナウイルス感染症の流行が収束しても、何年後かには違った疫病が発生するかもしれません。そういった事態が起きたとしても、医療者は当事者意識を持って問題の解決にあたらなくてはいけないと思っています。

今後の医療はどのように変遷していくと思われますか?

綾田潔院長 綾田医院4

まず、新型コロナウイルス感染症に対応するための方法の一つとして知られる遠隔医療は、収束後も恒久化されると思います。また繰り返し使えるリフィル処方箋が導入されれば、その期間内は患者さんが来院しなくなるかもしれません。それまで毎月来ていた患者さんが、何ヵ月かに1回しかいらっしゃらなくなるとしたら、その時間をどう使うかが課題になるでしょう。通院が難しい患者さんへの訪問診療を拡充するとか、これまで病院に送っていた患者さんに対して、医院レベルで治療できるところまでは対応するとか、何かしらの診療方法を模索していくことも必要になると思います。

医療の分野を超えた「地域づくり」を考える

地域の方たちとの交流を通して印象に残るエピソードなどはありますか?

綾田潔院長 綾田医院5

現在通院されているお年寄りの患者さんから、「子どもの頃にこの医院に予防注射をしに来た」とか、「喘息の発作を起こした時に親に背負われて来たことがある」といったようなお話をされることが少なくありません。そういった世代間での記憶の共有が、ここの空間ではまだできているんですね。そういうところは自分でも良いことだなあと思います。そういった経験ができる医師は少ないでしょうし、とてもうれしいことです。それを私の次の世代にもぜひともつなげていければ良いなと思います。

それでは今後の展望をお聞かせください。

地域の医療・介護などの関係職のネットワークを、構築していかなければまらないということがまず1つ。もう1つは医療の分野を超えた「地域づくり」について考えています。地方の衰退がさらに進めば、医療を提供しようにも受けに来ることができない人が増えていくことでしょう。稲作ができなくなった休耕田があると、そこに雑草が生え始め害虫が逃げ込むため、他の人に頼んで稲作をしたり、せめて雑草は刈り取ったりしましたが、最近はそれもできずに草ぼうぼうの休耕田が増えています。それも地域が崩壊しつつあるサインの1つです。難しいことですが、そういったことに対して、少しでも力になりたいと思っています。現在は町内会で集まった際にいろいろ話し合ったりしていますが、その輪を少しずつ広げていき、例えば認知症の高齢者のためのカフェとか、貧困家庭の子どもの食事のケアとか、地域社会の崩壊を防ぐために何かしたいという気持ちが大きいです。

診療以外の時間は何をして過ごしていますか?

綾田潔院長 綾田医院6

慢性疾患のあるお年寄りは、頻繁に入院したり介護施設に戻ったりを繰り返します。基本的に、現在はその度に紙ベースで名前や住所からすべての情報をそこに書かなければいけません。でもそれはすごく時間の無駄でもあるのですね。だからデータベース型の業務アプリ構築クラウドサービスを使って、高松市で入退院する患者さんの情報をあらかじめデータベースにしておき、変更があったところだけ書き換えれば良いようなシステムを作ろうとしています。高松市と市の医師会が音頭を取って、すでに紙ベースのデータベースを作るところまではできてきているんです。それを最終的にはペーパーレスにできないものかと。私は高松市医師会においてIT部長という立場でもありますので、何とかできませんかと頼まれてプチプチとやっているところです(笑)。ただ利用料や人件費などのコストがかかることでもあるので、それをどうするかが当面の課題ではありますね。

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