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多和 昭雄 所長の独自取材記事

東大阪市荒本平和診療所

(東大阪市/荒本駅)

最終更新日:2022/09/09

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所 main

近鉄けいはんな線荒本駅から歩いて10分。町工場が並ぶ、いかにも東大阪らしい町並みの中で、約40年という長きにわたって地域医療を展開しているのが「荒本平和診療所」。現在は内科と小児科を中心に整形外科・外科・放射線科を診療範囲としており、通所リハビリテーション施設まで併設し、赤ちゃんから高齢者まで、誰もが気軽に安心して通える診療所として親しまれている。「建物も内装も昔のままで、まるで離島の診療所みたいでしょう」と笑うのは、2016年に所長に着任し、小児科を担当する多和昭雄先生。大阪大学や国立の大規模病院で培った経験を生かすべく、この診療所とともに第二の人生を歩んでいる。そんな多和所長に、診療所の特徴や役割、子どもの診療に対する思いなどをじっくり聞いてみた。

(取材日2018年2月14日)

地域との信頼関係に診療所の歴史を感じる

こちらの診療所は公設とのことですが。

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所1

そうですね。東大阪市が土地と建物を提供し、公設民営の医療機関として1981年に開院しました。最初は内科だけでしたが、赤ちゃんからお年寄りまで、消化器でも循環器でもなんでも診るという、町の開業医さんみたいなところから始まっています。地域に欠かすことのできない医療拠点のような存在ですね。特に設備が充実していたわけでもなく経営陣も素人でしたから、患者さんも1日に20人来ればいいという状態で、開院からしばらくは苦労したそうです。現在は内科が中心で医師が4人。小児科は私が担当し、整形外科の先生を合わせると6人の医師がいて、スタッフは、すべて合わせると40人ほどになります。

多和所長がこちらに着任したのは2年前ですね。

私はもともと大阪大学医学部の出身で、大阪大学医学部附属病院や大阪厚生年金病院(現・地域医療機能推進機構大阪病院)、国立大阪病院(現・国立病院機構大阪医療センター)に勤めていましたが、2016年の3月で定年退職を迎えたんです。それで次の職場を探していたところ、たまたまお話が来て面接を受けたのがこちらの診療所でした。その時に対応していただいたのが、開院以来ずっとこちらに勤めている女性の事務長さんで、杓子定規なところがなく、人間味にあふれた非常に魅力的な人物でした。それで土曜日だけ何回かお試しで診療をして他のスタッフさんたちともふれあうことができ、これならぜひ働きたいと正式にお願いしたわけです。

勤め始めての印象はいかがでしたか?

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所2

これまで勤めていた病院に比べるとフレンドリーというか、スタッフはみんな、いわゆる近所のおばさん、お姉さんという感じですね(笑)。患者さんも下町気質といいますか、言いたいことを仰って、あとはさっぱりとしています。患者さんも看護師さんも、あまり我慢せずに言いたいことを言い合っているのに、不思議とトラブルにはなりません。新しい病院だと、なかなかそうはいかないと思いますが、そこは診療所の歴史の長さ、地域の皆さんとのお付き合いの長さを感じますね。あと大きな病院と違って、急性疾患の患者さんでも同じ医師がずっと診ることができる、それがこういう診療所のいいところです。

大切なのは、本当の理由を聞き出すこと

先生は小児科で長く勤務医をされていますね。

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所3

実は私の父が医師で、宝塚で40年ほど内科医院を開業していました。普通、息子はそれを継ぐと思われていますが、患者さんはお年寄りが多く、いきなり小児科の看板に取り替えるわけにはいきませんので開業医は諦めました。内科を選ばなくて良かったなというエピソードがあります。小児科の医師になって2年目に、内科の当直ですごく不安な一夜を過ごしたことがありました。ある入院患者さんが息苦しいと言うので行ってみると、心臓が悪くて喘息と糖尿病があり、主治医がそれぞれ循環器と呼吸器と糖尿病の先生に分かれているわけです。それでそれぞれの主治医に連絡を入れると、それはうちの病状じゃないと電話を切られてしまう。そういうこともあって、ちょっと内科は厳しいなとその時は正直思いました。私が勤務医として小児科を長くやってきたのは、そんな理由からですね。

診察時に心がけていることを教えてください。

私の場合、なるべく何もしないのが信条なんです。若い頃はついアカデミックに考え過ぎたり、検査をやり過ぎることがありました。それをあまりやらなくなったのは、この年齢に達しての成熟だと思っています。時代もどんどん変わってきました。昔は、子どもが高い熱を出したら抗生物質(抗菌薬)を出すのが当たり前でした。今では、普通の風邪の症状で抗菌薬を出すことはありません。他にも咳止めや鼻水止めなど、有用だというエビデンスがないとしても一方で副作用はあり得るわけで、天秤にかけると出さないほうがいい場合もあるという考え方もあります。ただ、医師の意見も割れていて、インターネットなどで調べると逆のことが出てくる場合がありますね。この周辺の地域の方は医師の指示に従ってくださる素直な方が多いので、非常に診療がしやすいです。

子どもの診察で大切なことは何ですか?

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所4

ずいぶん昔ですが、熱を出したお孫さんをおばあさんが連れてきたことがありました。気管支炎だったので抗菌薬を出して病気の説明をしたのですが、どうも様子が変なんですね。帰り際、細長い診察室を歩いていき、ドアノブに手を掛ける段になって、ようやくそのおばあさんが振り返り、「あの……扁桃腺(へんとうせん)は大丈夫ですか?」と聞くんです。その子、きっと何回も扁桃腺炎を繰り返しているんですね、熱は気管支炎のせいなので扁桃腺は大丈夫なのですが、おばあさんにしてみれば、それが来院の最大の目的だったわけですね。それ以来、どういう目的で来られたのかを知り、その不安や心配事をちゃんと解決して返してあげることが大事だと学びました。そのためには、「この先生なら何を聞いても大丈夫だ」という雰囲気を醸し出すことが大事だと思っています。

病診連携で高齢者の手厚いケアをめざす

高齢の患者さんに対するケアを教えてください。

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所5

この辺りの地域は、やはりご高齢の方が多いですね。古くからの団地がたくさんあり、当時に入られた方がそのまま年を召されているというパターンが多いようです。皆さん、もう通い慣れていらして、当所が車で送迎をすることもありますので、雨が降れば待合室でそれを待っておられる方もいらっしゃいます。デイケア施設が一緒になっていることも、診療所の特徴だと思います。理学療法士や介護専門の職員がいるので、安心してケアを受けていただけるかと思います。風呂のお湯は、温泉水をわざわざタンクローリーで運んできてここでかけ流していますから、皮膚疾患などのある方にはとても喜んでいただいてます。

予防接種や健康診断にも力を入れているそうですが。

予防接種の種類が増え、いろいろと複雑でためらっている方もいらっしゃると思います。当所に来られる方に予防接種を勧めると、大抵の方は「母子手帳に書いてある」「健診の時に言われたから」と、素直に受けてもらえるので非常にやりやすいですね。健康診断は胃腸の透視や腹部エコー、心電図など、一般的なことには対応しています。土地柄、やはり町工場などの企業健診の方が多く、原則として火曜日なのですが、皆さんの都合のいいときにドッと来られることもあります。インフルエンザワクチンの供給が遅れ、入荷した途端に殺到されることもありますから、予防接種も健康診断も、ある程度は予約枠外でも臨機応変に対応して融通をつけているのが現状です。

最後に、今後の展望などを教えてください。

多和昭雄所長 東大阪市荒本平和診療所6

事務長さんともいろいろ話し合い、内科に関しては胃カメラのできる先生に来てもらうなど、検査や健康診断の拡充をしていきたいと考えています。しかし、一番の課題はここを利用していただく方をもう少し増やしていくことで、私自身は子どもさんにもっと来ていただければと願っています。とはいえ、今後はお年寄りの医療をどうするかが社会全体の課題ですね。大きな病院と診療所が上手に連携していくことも大切でしょうし、患者さんにとってのとっかかりは診療所ですから、診療所や開業医の先生が中心になって進めていくべきなのかもしれません。患者さんとは、これまでどおりに付き合っていければありがたいですね。地域の健康を温かく見守っていく、そういう存在として末永く続けられればと思っています。

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