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澤田 一美 院長の独自取材記事

はながしま診療所

(宮崎市/宮崎神宮駅)

最終更新日:2024/03/21

澤田一美院長 はながしま診療所 main

JR日豊本線・宮崎神宮駅から北へ徒歩10分。結婚式場もある住宅街にある「はながしま診療所」。医療的ケアが必要な重症心身障害児の診療に力を注いでいるが、この他医療型短期入所にも対応しており、介護者の急病時にも頼ることができる存在だ。院長の澤田一美先生は、日本小児科学会小児科専門医として小児医療に長年携わってきた経験を持つドクター。これまでの経験を生かしつつ、「重症心身障害児はもちろん、お母さんも支えたい」と語る澤田院長に、診療所の特色や診療に対する思いを聞いた。

(取材日2024年2月7日)

地域の重症心身障害児と母親を支えたい

院長に就任したきっかけを教えてください。

澤田一美院長 はながしま診療所1

もともと小児科専門医として、宮崎大学医学部附属病院小児科や宮崎県立こども療育センターなどで小児医療に携わっていました。とてもやりがいを感じながら従事していたのですが、自身の子どもが生まれてからは子育てと仕事の両立の難しさをひしひしと感じました。そして、日々向き合っている重症心身障害児のお子さんを育てるお母さんは、なおさら大変だろうなと思ったんです。この経験から「診療を通して重症心身障害児だけでなくお母さんの負担を軽くしたい」と強く感じていたところ、ご縁もあり前院長から思いを受け継ぐかたちで院長に就任いたしました。

こちらの診療所の強みは何ですか?

リハビリテーションを担当する作業療法士の他、障害者の介護支援を行う福祉施設内の診療所ということもあり、看護師や保育士の他さまざまな職種の職員がいます。このような体制のもと、あらゆる視点から患者さんのことを見ることができる点が強みですね。例えば看護師の場合、お母さんと同じケアを診療所のショートステイで行いますのでここをこうすればよいのでは?と具体的なお話ができます。また保育士や介護士は、「こんな音楽が好きそうですよ」「この絵本には反応が良いです」など、忙しいお母さんたちに代わってお子さんの「好き」を見つけることができます。今はインターネットで情報を手に入れやすい時代にはなりましたが、やはり直接相談ができる環境というのはとても大切だと思います。このような環境は他の病院ではなかなかないと思うので、当診療所の強みだなと日々の診療で感じています。

特に力を入れている診療分野を教えてください。

澤田一美院長 はながしま診療所2

重症心身障害や発達障害のあるお子さんの診療に特に力を入れています。「高齢者と障害児の介護は何が違うの?」と聞かれることが多いのですが、まったく違います。一番違う点は、障害児の主な介護者はお母さんだということです。高齢者の介護は子どもが介護者という場合が多いですよね。しかし障害児の介護は、何歳になっても子育てをし続けなければいけません。高齢者の介護とはまた違った視点で考えないといけないことがたくさんあります。子どものためにお母さんは自分の人生を捧げて介護にあたっています。だから私は、障害のあるお子さんの診療だけではなく、お母さんたちの支えにもなりたいんです。重症心身障害ともなると診療できるクリニックの数も少なく、大学病院などの大きい病院に行かないと診療できない場合が多いので、私たちは地域の障害児やお母さんに寄り添った診療所をめざしています。

「来て良かった」と思ってもらえる診療を

先生が小児科を専門に選ばれた理由は何だったのでしょう。

澤田一美院長 はながしま診療所3

赤ちゃんを診察できる医師になりたいと思っていたので、小児科と産婦人科でずっと悩んでいた時期がありました。しかし、NICU(新生児集中治療室)で赤ちゃんだけ診療するのか、それとも小児科で子どもの成長を継続して診療していくのかをあらためて熟考した時、私がやりたいことは後者だなと思ったんですよね。それくらい子どもが好きなんですが、好きになったきっかけは弟の存在だと思います。年が離れているので小さい頃からお風呂に入れたり、食事をさせたりしていて、一緒にいると若いお母さんだと間違われることもあったんですよ(笑)。この経験で子どもに親しみを持つようになりました。

医師人生のターニングポイントを教えてください。

以前、小児科のNICUで新生児の診療に従事したことがあります。当時私がいたNICUは、1000g未満で生まれた赤ちゃんの命を助けることで精いっぱいで、命に別状がない赤ちゃんは目も見えず耳も聞こえていない状態で退院していくお子さんもいました。その時、「この子たちはこの先どのように生きていくんだろう」「親御さんはどれほど大変だろう」と思ったんです。これが赤ちゃんや保護者の人生を支えられる小児科医をめざすようになった最初のきっかけです。あとは宮崎県立こども療育センターに在籍していた時、隣接の支援学校に通う子どもたちが笑っている姿を目にしたんです。診察に来る子どもは病院ということもあり、笑顔を見せてくれることがあまりないのですが、その楽しそうな笑顔を見た時、もっと生活に携わって子どもの幸せをサポートしたいと思ったんです。今思えば、この2つの経験が私のターニングポイントでしたね。

診療の際に心がけていることはありますか?

澤田一美院長 はながしま診療所4

「来て良かった」と思ってもらえるような診療を心がけています。子どもを病院に連れて行くのは大変じゃないですか。子どもの機嫌を取るおもちゃや哺乳瓶などで荷物も多くなりますし、病院へ行くとなると子どもも嫌がりますよね。重症心身障害児を抱えているご家族の方たちは、なおさら大変だと診療を通しても感じています。そのような状況から来院してくださった方には可能な限り不安や悩みを解決したいのです。私も患者として病院へ行くことがありますが、医師である私ですら聞きたいことが聞けなくてモヤモヤする時があるんですよ。なので、最後に「他に気になることはないですか?」と聞くように心がけ、少しでも悩みや不安に寄り添える体制を整えています。

母親をサポートする場をこれからも

休日の過ごし方や趣味を教えてください。

澤田一美院長 はながしま診療所5

アクセサリー作りなどの手芸が趣味です。私の子どもが不登校だった時期があったのですが、一緒に家にいる時間が長かったので、家でできる何かを探していた時に出合ったのが手芸でした。一つの作品を作り上げるまで黙々と作業に没頭できるので、日々の悩みや疲れを忘れて無心になれるんですよ。思考の切り替えができて、できあがる頃には頭がスッキリするので、今でも休みの日には少しずつ作っています。実際に成人式の際につけるヘアアクセサリーなど、人生の大切な節目に私が作ったアクセサリーを使いたいと言ってくださる方もいて、こういったうれしい瞬間があるのも手芸のいいところですね。

患者さんとの印象深いエピソードはありますか?

心に残っているのは、亡くなった子どもたちとそのお母さんたちのことです。お母さんは「自分の体の半分を失った」と表現するほど深い喪失感を抱えて、長年にわたってその悲しみを感じ続けています。多くの家庭では、お母さんがキャリアを犠牲にして子育てに専念しているのが現状です。私自身も、仕事と子育ての両立に苦労しキャリアを一度断念した経験があります。重症心身障害児を持つお母さんは、お子さんの介護を「仕事」と表現して人生を歩んでいました。それなのに、やっと介護に慣れたと思った矢先、子どもを失ってしまった。母さんの喪失感は量り知れません。今お子さんと一緒に暮らしているお母さんでも、生きる意味を見失うようなつらい経験がこれから待ち構えているかもしれません。それでも頑張ることができるのは大切なわが子だからです。そんな大変だけれど愛おしい日々を過ごすお母さんたちを、これからもサポートしていきたいです。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

澤田一美院長 はながしま診療所6

医師だからと遠慮したり身構えたりせず、聞きたいことはなんでも聞いてください。私自身も聞きやすい雰囲気づくりを意識しているので、困ったことや心配事は解決してスッキリした気持ちで帰っていただけたらいいなと思っています。診療所まで行くことは難しいという方は、訪問診療も行っています。実際に生活をしているご自宅に伺うことで見えてくるものや、家でリラックスしているからこそ出てくる本当の思いもあると思うんですよね。重症心身障害のあるお子さんの診療や、お母さんのサポートをする場はなかなか周りにないと思うので、困り事がある時はいつでも頼ってほしいです。

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