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川口 俊 院長の独自取材記事

かわぐち呼吸器内科クリニック

(東大阪市/布施駅)

最終更新日:2024/05/02

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック main

近鉄奈良線布施駅の南口から歩いて約4分、大通りに面して立つのが「かわぐち呼吸器内科クリニック」。長年にわたり大阪市の市民病院で呼吸器科部長を務めるなど、呼吸器疾患のスペシャリストである川口俊(かわぐち・たかし)院長が、生まれ育った地元で2011年に開業した。長引く咳などで苦しむ患者が、遠方からも同クリニックを探して受診するという。一方で、地域のニーズに応じて訪問診療も実施、看取りを含めた終末期医療も行う。「地域医療では、医師の果たせる役割はごく一部です」と語りつつ、医療のプロとして真摯な姿勢で日々の診療に携わる院長。「自分の中の正義に正直でありたい」との言葉からは、医師という生き方を選んだ覚悟が伝わってきた。

(取材日2018年4月25日)

呼吸器内科開業医の必要性を痛感して転身

開業までの経緯を教えてください。

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック1

大阪市立大学を卒業したのち、各地の総合病院勤務やカナダへの留学を経て、1998年からは大阪市立の市民病院で勤務を重ねてきました。十三市民病院では呼吸器内科の立ち上げにも関わり、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などをはじめ、多くの呼吸器疾患の患者さんと向き合いました。特に長引く咳に苦しんでいる患者さんが多かったのですが、総合病院では自分で担当できる外来の日数が限られていて、症状の変化に応じたきめ細かな治療ができないことに、ジレンマがありました。また、社会の変化に伴って、「より地域に根差した診療へのニーズが高いのではないか」と考えるようになり、思い切って市民病院を辞し、2011年に地元であるこの布施で、呼吸器内科を専門的に診るクリニックを開業しました。

どのような患者さんが受診していますか?

現在、外来の9割は呼吸器関連の患者さんです。総合病院で勤務していた頃から感じていましたが、やはり長引く咳で困っている患者さんの受診が非常に多いですね。お子さんから30~40代の働き盛り、あるいは高齢者のように、幅広い年代の方が原因の特定できない咳に苦しんでいます。クリニック名に「呼吸器内科」と入っているせいか、インターネットなどで探して、八尾や奈良など遠方からされている患者さんも少なくありません。他に、禁煙の外来や睡眠時無呼吸症候群での受診も多いですね。一方、内科の慢性的な疾患では、ご近所の高齢患者さんが定期的に通われていることが多いですね。

呼吸器内科へ受診するとよいのは、どのような症状がある場合でしょう。

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック2

咳などの呼吸器症状が「いつもの風邪とは違う」と感じたときです。具体的には咳が長引く、血の混じった痰が出る、息が苦しい、ゼイゼイいうなどです。特に普段と違う咳が続くときには、結核のように周囲に感染する疾患の可能性もありますし、咳や血痰がきっかけでがんが見つかることもあります。元気に見えても肺炎になっていたり、高齢者では、昔かかった結核が再発していることもあります。そして長引く咳の原因として最も多いのは、喘息、後鼻漏を引き起こす鼻炎、咽頭アレルギーなどのアレルギー疾患です。後鼻漏というのは鼻水が喉の奥へ流れ込んで咳が生じるのですが、後鼻漏が見落とされて喘息に対するお薬だけでは咳が長引くことが多く、適切な処方が必要になります。鼻炎合併喘息は実は喘息の3分の2を占めていますが、鼻炎のコントロールが軽視されていることもあり、咳が長引くときには呼吸器を専門とする医師の診察を受けたほうがよいでしょう。

地域医療における医師の役割を模索

訪問診療もされていると伺いました。

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック3

実は、開業する時点では訪問診療は想定していませんでした。ですが、近隣でご開業の先生には高齢などを理由に訪問診療をされていない先生も少なくないことから、地域の基幹病院から、がんなどで終末期を迎えている患者さんへの訪問診療を依頼されることがあり、そこからがんだけでなく慢性呼吸不全なども含めさまざまな患者さんを訪問診療で診るようになったのです。今では連携強化型の在宅療養支援診療所として、複数の医療機関と協力しながら、15人ほどの患者さんを担当しています。ご自宅でも施設でも、要望があればどこへでも伺っていますよ。看取りも行いますので、24時間の対応になりますが、優れた訪問看護ステーションも周辺に数多くあり献身的に関わってくれています。さらに当院の熱心なスタッフが積極的に動いて、孤立しがちな高齢者をソーシャルワーカーやケアマネジャーにつなぐといった医療と社会資源の橋渡しの役割も果たしてくれています。

在宅診療の意義ややりがいを、どのように感じていますか?

そうですね、もちろんやりがいはありますが、「やりがい」と簡単には表現できないような、複雑な思いもあります。最近は医師会活動の一環で、地域の高齢者支援会議や多職種連携会議などに参加し、さまざまな職種の医療関係者や、地域住民をサポートする行政の方たちと話をする機会も多いのですが、その場において医師のできることは、「やりがい」というほど大したことではないと感じてしまいます。かつては「社会的入院」の形でサポートされていたような方が、今は医療への財源確保困難といった社会事情から、介護、しかも公助を受けるのではなく自助、互助を求められてしまうような状況にあり、たいへん苦労しながら生きておられます。このような社会の現実を目の当たりにしながら、医師にできることを模索する毎日です。

では、そのような中で医師として大事にしている考え方や姿勢はありますか?

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック4

もちろん患者さんとは、人として真正面から向き合い、丁寧に対応しますが、「医療はサービス業」という言葉には違和感があります。医療のプロフェッショナルとしての仕事をするために、表面上の対応だけでなく患者さんの抱える困り事や病気をきちんと見つけ出して、できることは自分の技量で治して差し上げたいですし、適切な診療の場につなげていくことも大事な役割だと思っています。そして何よりも、自分のエネルギーは、自らが使命感を感じていることにしか傾けられないと思いますので、自分の正直な気持ちや自分の中の正義に嘘をつかないようにしながら、日々の診療にあたっています。

自分の正義に従って、取るべき道を歩み続ける

医師を志した理由を教えてください。

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック5

医師という職業が、人の役に立てる素晴らしい仕事だと思ったからですね。だから、多くの人を助けられると考えて、当初は基幹病院の勤務医になりました。父は眼科を開業していましたが、患者さんの話を聞いて原因を探り出し、治療を行うという関わり方が自分には向いていると思いましたので、内科の医師を志望したわけです。中でも呼吸器内科は、疾患が多様性に富んでいますし、肺線維症のようにまだ原因が解明できていない疾患もあり、興味が尽きないと魅力を感じて専攻しました。

お忙しい毎日ですが、オフの楽しみはありますか?

カナダへ留学した際に、向こうの教室のボスに「どんな研究をしようがノーベル賞をもらおうが、一番の傑作は自分の子どもたちだよ」と言われたことが心に残っています。確かにそうですよね。だから、家族は大事にしています。また、わが子も活動していた地域子ども会のソフトボールチームに、今もコーチとして関わっていました。私自身は野球経験者ではありませんが、子ども、そして子どもを育てていこうとする同世代との交流は楽しかったですね。

最後に、今後はどのような医療をめざすのか、お聞かせください。

川口俊院長 かわぐち呼吸器内科クリニック6

勤務医時代から多くの患者さんを看取ってきましたが、特に治らない状態にある患者さんに対して、「きちんと診ることができた」、と思えたことがありません。自分が「これでよし」と思っているだけではないか、「患者さんやご家族の役に立てたのだろうか、どうすればよかったのだろう」と自問自答しながら仕事を続けています。今も答えは見つかっていませんね。医師としての日々はやりがいでもあり苦しみでもあります。ただ、医療のニーズは患者さんや時代、状況によって逐一変化するもので、それに対する私の役割はおのずと決まってくると考えていますので、安易なほうに走るのではなく、自分の思う正義や正直な気持ちを軸にしながら、取るべき行動を決めていきたいと思います。

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