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十枝 めぐみ 所長の独自取材記事

綾川町国民健康保険綾上診療所

(綾歌郡綾川町/陶駅)

最終更新日:2024/05/13

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所 main

隣接する保健センターとともに、綾上地区住民の生き生きとした人生をサポートする「綾川町国民健康保険綾上診療所」。旧綾上町時代から約30年間、同所の所長を務めているのが十枝めぐみ先生だ。診療所では慢性疾患の管理指導を中心とした外来診療だけでなく、個人宅や高齢者施設への往診・訪問診療にも対応。地域の小学校では小児生活習慣病の予防健診や健康講話を実施するなど、幅広い活動で各世代の健康を支えている。「できることなら、私が診た子どもたちが元気に長生きするところを見届けたい」。そう言って表情をほころばせる十枝先生に、医師をめざしたきっかけから、地域医療にかける思いまでたっぷりと話を聞いた。

(取材日2024年3月11日)

およそ30年にわたって、綾上地区の地域医療に貢献

医師の道を志したきっかけを教えてください。

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所1

病気がちな父の姿を、子どもの頃から見ていたことが、医師を志すきっかけになったと思います。読書が好きだったので、物語の中に登場する医師の姿にも憧れを持ちました。進学先として自治医科大学を選んだのは、1972年に創立された当時の新聞記事が、子ども心にも記憶に残っていたから。それと、在学中の学費が免除される仕組みがあったからですね。自治医科大学は各都道府県ごとに合格者の人数制限がありますので、駄目もとでの受験でしたが、運よく合格することができて、憧れの医師への道が開けました。

卒業後は、どちらで経験を積まれたのでしょう?

自治医科大学の卒業生には、9年間の「義務年限」というものが設けられます。出身都道府県の公的医療機関に一定期間、勤務することで学費の返還が免除されるんです。私は香川県立中央病院で2年間、初期研修を積み、その後は今はなき大内保健所や三豊総合病院、綾南町国保陶病院(現・綾川町国民健康保険陶病院)などで経験を重ねました。当時対応していたのは、今で言う「総合診療」。特定の分野にこだわらず、患者さんの健康問題を何でも診ていました。当診療所の8代目所長として派遣されたのは、まだ綾川町が綾上町と綾南町に分かれていた、1996年のことです。派遣される期間は大体が1年〜4年程度ですから、私もここまで長く所長を務めるとは思っていませんでした。就任の翌年に生まれた子どもも、すっかり大人になりましたよ。

患者さんの主訴を教えてください。

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所2

定期的に来られているのは、高血圧症、糖尿病、高脂血症といった慢性疾患をお持ちの方や、骨関節に痛みを抱えている方などです。患者さんの平均年齢は、70代後半くらいでしょうか。高齢の方が多いので、整形外科医院のような物理療法の機器も一通りそろえています。あとは、香川県立中央病院や三豊総合病院の先生に内視鏡の手技をたたきこんでいただき、診療所レベルでは比較的多くの胃、大腸内視鏡検査を行っています。当診療所の常勤医師は私一人ですから、一人でも対応できる内視鏡検査は環境に合っていると思いますね。外来診療以外では、週に2日ほど往診や訪問診療に対応していますし、子どもの生活習慣病予防健診や体操教室、健康意識向上を目的とした講話などにも携わっています。

健康を損なった子どもたちのため、小児保健活動に注力

地域でも先駆け的に、小児生活習慣病の予防健診を始められたそうですね。

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所3

当診療所に赴任してすぐに、地区の小学校の校医を務め始めましたが、そのうちに肥満症やアトピー性皮膚炎の子どもがとても多いことに気がついたんです。養護教諭の先生と何度も話し合い、教頭先生からの後押しも受けて、校医4年目の年から健康をテーマとした講話を行うようになりました。生徒数が70人程度の小規模校ですので、話していると子どもたちの表情がよく見えて、楽しくて。毎月継続するうちに、もう1ヵ所の小学校からもご依頼をいただいて、2校でお話をするようになりました。2005年に2つの小学校が統合され、町立の小学校が1つになった後は、かねてから検討していた小児生活習慣病の予防健診を一斉に開始。これは香川県内でも珍しい取り組みでしたが、その後徐々に広がりを見せて、今では県内すべての小学校で実施されるようになりました。

予防健診の結果はいかがでしたか?

まだ小学生なのに、高脂血症や肝障害の子どもが次々に見つかりました。栄養教諭の先生に食事を指導していただいたり、私自身も子どもたちに話をしたりしましたが、やはり健診の結果に問題がある子どもたちは運動が苦手で、なかなか運動の大切さが伝わらない。どうすればいいかと頭を悩ませていた時に、三豊総合病院の理学療法士さんが小児科の先生と協力して、体操教室を開いたという話を聞きました。私は「これだ!」と思い、参加のさせ方やノウハウを聞きに行き、健康運動指導士さんにもご相談して、体操教室を開いたんです。子どもって、本当はみんな体を動かすことが好きなんですよ。体を動かす機会を大人が作ってあげれば、いくらでも成長できるのではないかと、教室を始めてみて思いました。まったく縄跳びができなかった子どもも、1年たてばダブルダッチが飛べるようになるという具合です。体操教室は現在、町の主催となって継続開催されています。

子ども同士の交流の場にもなりそうですね。

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所4

複数の小学校の、学年も異なる子どもたちが一緒になって運動し、やがては同じ中学校へと進学していくわけです。昔から続けて来ている子どもが、下の子の面倒を見るという場面もあり、ほほ笑ましく見守っています。50歳の時には、こういった一連の活動を全国的にも評価していただきました。旧綾上町の方ではない、自治体の職員さんにも認めていただいたこと、体操教室の子どもたちや養護教諭の先生たちにも喜んでいただいたこと、そのどれもがうれしく、忘れられない思い出になりました。

大人になっても、規則正しい生活を大切に

先生が今後、力を入れていきたいことは何でしょうか?

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所5

私は患者さんの病気を治したくて、医師になりました。けれども、実際は治せない病気もあり、それが一番最初にわかる仕事なのだと理解して、ショックを受けました。そこからはずっと、患者さんとの向き合い方が大きなテーマです。最近は「アドバンス・ケア・プランニング」、ACPの啓発に力を注いでいます。これは元気な時から気負わず、楽しくご自身の終末期について話しましょうという取り組みです。この取り組みの背景には、勤務医時代に出会った一人の患者さんの存在があります。その方はご自分の死期がわかっているはずなのに、いつも笑顔を絶やさない方でした。「同じ一生なら、クヨクヨするより、ケラケラ笑っていたほうがいいでしょう」。明るくそう言った彼女の言葉は、今でも胸に刻まれています。

医師として、他にはどのような取り組みを?

私たちの仕事は、どちらかというと体を元気にするものですが、近年は「心のフレイル」も問題になってきました。体のように、心も動かさないと衰えていってしまうんです。心を動かすためには芸術も役に立つと考えて、昨今は綾上地区を中心に開かれる「かがわ・山なみ芸術祭」のお手伝いをしています。アートは、よくわからなくてもいいんです。何かを感じることができたら、それが心を動かすということだと思います。当診療所が入っているこの施設は、2002年の完成当時から「誰もが気軽に立ち寄って、心も体も元気になれるような施設」をコンセプトに掲げていました。保健センターとの間のエントランスホールにも、芸術祭の作品が展示されていますので、皆さんもここへ来て芸術に触れながら、心と体を動かしてみてください。

地域の患者さんへ、最後にメッセージをお願いします。

十枝めぐみ所長 綾川町国民健康保険綾上診療所6

長年にわたって、子どもを対象とした保健活動を続けてきましたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって学校が休校になり、生活が不規則になってしまった子どもを多く見かけます。朝ごはんを食べなくなったり、運動習慣がなくなってしまったり。健やかに暮らすためには、早寝、早起き、朝ごはん、規則正しい生活が大切です。もちろん、大人の皆さんにも同じことが言えます。私の目標は、自分が診た子どもたちが元気な大人になって、長生きするところを見届けること。そして、誰もが笑いながら人生を終えるためのサポートをすることです。これからも、皆さんが元気に過ごせる町づくりに貢献できれば、私はうれしく思います。

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