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林 孝平 院長の独自取材記事

綱島ホームケアクリニック

(横浜市港北区/綱島駅)

最終更新日:2021/10/12

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック main

2005年に開業した「綱島ホームケアクリニック」。院長を務めるのは、京都弁の語り口が印象的な林孝平先生。この地で在宅医療、訪問診療を中心としたクリニックを開業した理由や、医師をめざしたきっかけをユーモアを交えつつ話す中、ふと「重篤な状況にある患者さんには笑いも必要なんです」と真剣な表情に。「人間」が好きで、強い思いを持って医師になった林院長は、関わった人のために自分にできることに精いっぱい取り組み、患者と時間を共有できることに日々幸せを感じているという。クリニックの主軸を在宅診療にした理由、自宅で看取ることの意味など、人が好きだからこそ真剣に取り組んでいる林院長の言葉は心に響く、熱い言葉ばかりである。

(取材日2013年7月24日)

人や場所によって医師としての対応が変わることはない

開業を決めた理由を教えてください。

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック1

開業前は内科の医師として菊名記念病院に勤務していました。そこに先進のMRIとCT装置が導入され、その画像の精度の高さにショックを受けました。私が研修医の頃は、まだ腹部超音波装置もなく、診療では患者さんの訴えと病歴を聴取し、次に血液検査やエックス線検査という手順を踏みつつ、一つ一つの結果を大切にする、そうしないと診断に到達できない時代でした。中にはその疾患と想定しても、画像検査も含めた最終診断に数日かかる場合もありました。しかしその過程を避けて通ることはできなかった。ところが、CTなどの医療機器の進歩のおかげで、その検査をオーダーするだけで瞬時に解答が出るまでになったのです。このような時代、私が医師として役に立てる場所はどこだろうかと考えたことが、開業を決めた理由ですね。

在宅医療にはいつ頃から携わっていたのでしょうか?

約18年前に私が菊名記念病院に勤務した時、たまたま在宅医療を担当していた医師が退職されたんですね。そこで「先生はお年寄りが好きですよね。在宅医療をしてみませんか」と言われました。それがきっかけです。ただ、私は人間が好きであって、若かろうがお年寄りであろうが年齢は関係ありません。そして病棟であろうが在宅であろうが、人や場所によって医師としての対応が変わることはあり得ません。それで、すんなりと在宅医療に入り込みました。

綱島で開業することになった経緯についてお聞きします。

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック2

菊名記念病院を辞める時、病院長に「現在、在宅医療で担当している患者さんの中で私に診てほしいという方がいらしたら、診させてもらってもよろしいですか」と聞きました。そうしたら「全員診てもらってもいいですよ」とありがたいお言葉をいただいたんです。それで菊名記念病院に近い綱島で開業しようと決めました。患者さん宅からも近く、往診依頼などに早く対応できるようにしたかったからです。

全身を診たいという希望で内科医師に

医師になりたいと思ったきっかけと、内科を選んだ理由を教えてください。

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック3

中学や高校の頃、「命とは何か。自分はなぜ生まれてきたのか。人はなぜ死ぬのか」ということを日々考えていました。それで医療に興味を持ち、絶対に医師になりたいと思ったんです。兄弟の中で一番頭の良い長男が京都大学の医学部を受けたのですが、受からずすぐに就職させられました。父は厳しく、失敗を許せなかったようです。幸い私は浪人させてもらえましたが、浪人してだめだったら大学に行くつもりはありませんでした。医師になることだけを考えていましたから、なれないんだったらどんな仕事でもいいやと思っていましたね。内科を選んだ理由は、体全体を診ることができるからです。人間の「生」に関わりたくて産婦人科への入局も考えましたが、やはり女性も男性も診られるほうがいいと思って急きょ内科に変えたのです。

在宅医療を開始する前に、ご家族とはどのようなお話をされるのですか?

在宅医療を希望される場合、ご家族とは必ず面談をし、「命を預けることですので、私と合わなかったらいつでも他の先生にバトンタッチしていただいて構いません」とお伝えしています。当院で診ている患者さんはがん終末期の方が半数以上ですが、そのようなケースではまず面談で、ご家族が主治医の先生から病気に関してどのような話があって、どのように理解されているかを確認します。そして、患者さんがどのように死を迎えることになるのか、その時々のご家族の対応について現実的な説明をしています。ご本人の前ではご家族もその思いを十分に話せないでしょうから、まずはご家族といろいろなお話をするんです。次に私たちが在宅診療でできることをお話しして、納得いただければ「では一緒にやっていきましょう」ということになります。

在宅医療で大事なことはどういったことですか?

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック4

特に終末期の患者さんで大切なのは「スピードと過程」です。過程とは病院との連携と、先ほどお話しした面談です。患者さんに残されている時間は限られており、スピード感を持って対応しなくてはなりません。しかもその過程をしっかり踏んでいかなければならないと思っています。この7年半でたくさんの終末期の患者さんとお付き合いしましたが、その期間は1週間以内の場合もあれば3ヵ月未満の場合もあり、人によってまちまちです。いずれにしても残されている時間は短いため、依頼があれば可能な限り早急に病院での面談を行います。そして退院までに、今どのような状況で、どういった薬を飲み、どんな医療機器を使っているかをすべて把握し、必ず退院当日にご自宅に伺います。

林院長が日々の診療で心がけていることは何ですか?

状態は一人ひとり違いますので、常に何が起こるかを予測して対応できるようにすること、自宅でできる限りの全身管理を行うことが重要ですね。自宅での緩和ケアはお薬の使い方が重要になってきますので、ご家族も一緒になってその使い方を学んでもらっています。その説明を丁寧にすれば、皆さん十分に理解して正しく対応してくださっています。また医療依存度の高い方にはご家族の負担が可能な限り少なくなるように心がけています。

人と時間を共有できるのは幸せなこと

在宅医療は急な対応が必要な場合も多いですよね。

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック5

急な対応もそうですが、常に対応可能な状態でいなければいけません。以前は私一人でしたが、今は週の前半を非常勤の先生にも協力してもらっています。電話対応だけで済むこともありますが、電話で呼ばれたらいつでも行く。行くと患者さんが安心してくださる。これが在宅医療の大切な意味あいなのかなと思っています。なので、何をしていても電話に出られるようにいつも気をつけています。病院に入院している患者さんであれば、急な処置でもすぐに対応できますが、在宅医療では診察までに時間がかかってしまいます。いつも距離と時間を考えていなければなりませんし、症状のみで救急車要請などの的確な指示を出すことも重要ですね。

ところで、お休みの日はどのように過ごしていますか?

ただただ体と気持ちを休めるという感じです。とはいえ、在宅療養支援診療所で限られた人数の医師で対応していますので、電話が鳴ったらすぐに出て指示を出しますし、まとまった休みは取れません。それでも患者さんやご家族の方に「ありがとう、安心します。」と言われるとうれしいですし、自己満足ですが、医師という職業に就けたことに感謝しています。私がやっていることは患者さんやご家族に安心を運んでいることかなと思いますね。その人とその時間を共有できることは幸せなことだと思っています。

最後に、林院長にとって在宅医療とは何でしょう。

林孝平院長 綱島ホームケアクリニック6

これまで数多くの終末期の患者さんをご自宅で看取ってきました。その人の一生の終わりに立ち会えることは光栄なことだと思っています。国立がんセンターのデータでは、余命6ヵ月と告げられた半数以上の方は自宅で過ごすことを希望するそうですが、現実は希望どおりにはいきません。でも、残された時間が限られていて、自宅でも病院と同じような治療ができるなら、私は自宅のほうがよいのではないかと思っています。終末期の緩和ケアでは鎮痛剤を用いることが多いのですが、病院と在宅では鎮静剤の必要度が異なると聞きます。自宅で過ごすということは、それほど大きな意味を持っているんですね。ちょうど在宅医療に関わった頃、著明な病理学の先生の「美しい死」という言葉に出会い、その言葉はずっと私の中に頑然と存在しています。病気と闘うべき時は闘い、それが終わったら、自分が療養したい場所でゆっくり過ごしてもらいたい、そう考えています。

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