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高橋 徳昭 所長の独自取材記事

伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所

(伊予市/伊予中山駅)

最終更新日:2021/10/12

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所 main

南予地域の玄関口の伊予市。「伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所」は山々に囲まれた盆地と山腹に集落が形成された旧中山町にある。住民の要望を受けて1986年4月に開設された、国民健康保険直営の歯科診療所だ。所長の高橋徳昭先生は、初代所長として愛媛大学から赴任して33年になる。「中山の人たちは優しい方ばかり。診療所のお花も町の人が持ってきてくれます」と高橋先生は優しい口調で話す。赴任以来、地域の子どもたちの予防歯科や、高齢化の進む町で住民の人生に寄り添う歯科医療に取り組む高橋先生に、30年来のエピソードや今後についてたっぷり語ってもらった。

(取材日2019年8月29日)

30年来の取り組みが実り、地域に口腔ケア意識が浸透

最初に、先生が歯科医師を志したきっかけを教えてください。

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所1

私の実家は伊予市にあるお寺なのですが、叔父が松前町で歯科医院を開業していて、子どもの頃から診てもらっていたことがきっかけですね。歯科医師になることに対して、両親からは反対されませんでしたが、後を継いで住職になった弟からは今でもいろいろと言われます(笑)。愛媛県には歯学部のある大学がありませんから、東京の大学に進学して、卒業後は愛媛大学医学部附属病院の歯科口腔外科に勤務していました。1986年4月にこの診療所が開設されて、30歳で所長として赴任してきましたから、こちらに移り住んでもう30年以上になります。地域の方たちは優しくて、ご近所さんが親戚同士のよう。いつも野菜やお花や料理を持ってきてくださいます。私たち家族も、住民として地域の公民館活動やお祭り行事に積極的に関わってきました。

どのような経緯で診療所は開設されたのでしょうか?

当診療所は、旧中山町の国民健康保険直営の歯科診療所として開設されました。開設以前の旧中山町には、歯科医院は1軒のみで、多くの方が松山市などの町外の歯科医院で診てもらっていました。当時はJRがまだ開通していなかった時代。歯科医院までバスや車で通わねばならず、住民から歯科診療所開設の要望が高まっていました。同時に、国民健康保険の歯科医療費が町外に出ていくことも問題になっていて、こうした声を受けて、国保直営の診療所が開設されたわけです。診療所の開設により、通院がてら近所の商店で買い物をする人も増えて、町の中に人が戻ったという効果もありましたね。

開設当初の状況はどのようなものでしたか?

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所2

待望の歯科診療所でしたから、患者さんが多くて大変でした。特に驚いたのは子どもの虫歯の多さ。4~5歳で、虫歯で歯を失って根っこしか残っていないような状態の子どもも1人や2人ではありませんでした。生え変わり前の乳歯の時期なのに、高齢者の口の中のようになっていて、笑うと歯がないんです。このため1991年から地域一帯の4歳児から中学3年生までを対象に、週1回、学校や園でのフッ化物洗口を始めるなどの予防に取り組み、現在、旧中山町は県内でも子どもの虫歯の少ない地域になりました。私自身、口腔外科にいた頃は予防のことをあまり考えたことがなかったのですが、身をもってその大切さを知りました。予防歯科の取り組みがここまでできたのも、地域の保健師さんをはじめ、保健所の方たちが尽力してくださったおかげ。私は保健師さんの指導についていったようなものです。

歯を残して、自分で噛むことの大切さ

診療で重視していることは何でしょうか?

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所3

患者さんの6割が75歳以上の後期高齢者ですが、歯を残すことに重きを置いています。旧中山町は認知症のコホート調査が長年行われていて、歯が残っている人や歯を失っても入れ歯をしている人のほうが認知症になりにくいというデータがあります。ちなみに私は、「後期高齢者」ではなく「高貴高齢者」や「光輝高齢者」と呼ばせていただいています。私たちの歯根部分には歯根膜という敏感なセンサーがあります。髪の毛の直径が50~150ミクロンですが、1本でも噛めばすぐにわかるでしょう?「噛む」ということはそれだけ脳に刺激を与えているのです。高齢になられても患者さんがご自身で通えるうちはメンテナンスに来ていただき、通えなくなれば訪問診療に切り替えています。近くの特別養護老人施設に出向き、入れ歯や虫歯、歯周病治療に加え口腔ケアを行い、職員さんにケアの方法を指導し、誤嚥性肺炎で入院する方を減らすことにつなげています。

そのほかに診療でのこだわりや心がけていることはありますか?

患者さんにはなぜ歯を治さないといけないのか、それから体の不調についても伺って、「もしかしたら歯を治したらそういった症状が軽くなるかもしれませんね」というお話をしてから治療に入ります。また高齢の方が多いですから、口腔機能の低下(オーラルフレイル)を防ぎ、向上させることに力を入れています。認知症もそうですが、咀嚼するということはとても大事なこと。お口の機能が衰えると、栄養の摂取が十分に行えないために筋力の低下を招き、足腰が衰えてしまうこともあるんです。また噛むと唾液が出ますが、唾液は口の中をきれいにしたり、機能を維持したりする上でとても重要です。オーラルフレイルの時期を捉えて予防することはとても大事なことなんですよ。

30年にわたる地域での活動の中で、印象深いエピソードをお聞かせください。

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所4

これまで、歯科恐怖症などで治療していなくてお口の中が崩壊状態になっていた方を治療したり、胃ろうで認知症の症状もあった方に入れ歯を作ったり、高齢の方々のいろんな症例を手がけてきました。例えば、これまでまったく噛めなかった人が、自分の歯で、自分のお口で食事を取れるようになると、健康面だけでなく、生活そのものが大きく変わりますよね。人生の最後の時期まで、自分の口で食べられるということはご本人にとっても幸せなことですし、ご家族や職員さんも喜んでくださいます。もちろん、全員に当てはまる話ではありませんし、健康状態が改善に向かうのには歯以外の要因もあるでしょうが、高齢の要介護の方が自分で食べられるようにしたり、肺炎を防いだりすることも、歯科医師の役割かと思います。

患者の人生を考え、並行して寄り添う診療を

先生が日頃から大切にされていることを教えてください。

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所5

できないことの条件を考えるのではなくて、どうやったらできるのかを考えます。新しいことをしようとすると、反対意見は起こるものです。日本プロサッカーリーグを立ち上げる際、初代チェアマンが反対勢力に対して言った言葉があります。「『時期尚早である』という人は100年たってもそう言うし、『前例がない』という人は200年たっても同じことを言う。指導者に必要なものは強い信念と、私利私欲のない方向性と強力な説得力である」。大切なのは、まず行動することです。

今後の展望をお聞かせください。

歯科治療は、お母さんのおなかの中にいる時から始まり、最期の時間に至るまで、患者さんの全生涯にわたって関わることができます。旧中山町は住民の数が減少する一方で、少子高齢化が進んでいますが、将来の病気をつくらないためにも子どもの予防は継続して力を入れていきたいですね。また高齢者の医療には介護が関わってきますから、お口で食べたいという方には食べる訓練をするなど、住民の皆さんにいかに寄り添えるかをテーマに、今後もできることを続けていくつもりです。

所長として地域包括ケアにも携わってこられて、良かったと思うことをお聞かせください。

高橋徳昭所長 伊予市国民健康保険直営中山歯科診療所6

予防、医療、福祉、介護、それに加えて町づくりまで関われたことは、一般開業医では経験できなかったと思います。国保の診療所の先生方は、病気の診断をするのと同じように、地域の診断をしています。どんな町にしたら住民の方が楽しく暮らしていけるのかを考えて、その中での健康を考えます。地域や生活の中に病気はあるのですが、病気になると病院という、地域や生活と隔離された場所での治療になります。当診療所ではそうした人生のスポット的に関わる治療ではなく、患者さんの人生に並行して寄り添うことを基本理念としています。その方がどのように生きたいのか、そのために何をしてあげられるのか、歯科の立場からどのような住民サポートができるのかこれからも考え続けていきたいです。

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