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田中 秀一 院長の独自取材記事

田中医院

(橿原市/八木西口駅)

最終更新日:2024/04/08

田中秀一院長 田中医院 main

近鉄橿原線・八木西口駅より徒歩8分。江戸時代の町家が並ぶ中にある「田中医院」では、漢方の知識を生かした診療を行っている。漢方に出会って以来、30年以上「趣味も仕事も漢方、毎日が漢方」の生活を送る田中秀一院長。現代医学と漢方をうまく融合しながら、長年の悩みを抱える人やどこに相談すれば良いのか困っていた患者に寄り添った治療を提案している。若手の育成や、他院での外来診療、各地での講演など、漢方の発展に尽力する田中院長の原動力は「面白いから」。一人でも多くの人に漢方の魅力を伝えたいと語る田中院長に、その思いを聞いた。

(取材日2024年2月20日)

ひょんなことから出会い、のめり込んだ漢方の道

まずは、これまでのご経歴を教えてください。

田中秀一院長 田中医院1

1983年に関西医科大学を卒業後、放射線科に入局しました。父がもともとこの場所で当院を開業していたので、継承を視野に一般内科で勤務医として働いていました。漢方と出会ったのは、医師の仕事を始めて10年ほどたった頃。不妊治療で知られる寺師睦宗先生のセミナーに参加したことがきっかけです。実は参加した動機は、1泊2日でいいホテルに泊まっておいしいごはんが食べられるからで、積極的に漢方を学ぼうという意欲は薄かったんです。なんとなくその1泊2日が楽しそうという理由で参加したところ、セミナーに引き込まれ、漢方の面白さにすっかりはまってしまいましたね。思えば、そういった面白そう・楽しそうという気持ちが、これまでの原動力です。

漢方に出会った時は、まだ医院の継承前ですね。どのように漢方の知識を身につけていかれたのでしょうか。

当時は、まだ漢方を専門にしている医師が少なかったので、勤務していた病院でもなかなか薬を使わせてもらえませんでした。そこで、薬局に直接交渉に行き、必ず使いきるからと頼み込んで薬を取り寄せてもらい、それを処方することで、経験から学びを得ていきました。また、「3000件のセミナーに出た男」と名乗っていた時期もあるほど、どれだけ遠方でも構わず、各地のセミナーや勉強会に参加していました。その中で出会った三谷和男先生のチームをホームグラウンドにしながら、とことん漢方の勉強をしました。ここでの勉強会は現在も続いていて、メンバーが集まるといつまでも漢方の話が尽きません。みんな高齢になってきていますが、全員が同じ熱量で「漢方は面白い」と話せる仲間です。

1994年に現在の医院を継承されました。どんな方が来院されていますか。

田中秀一院長 田中医院2

女性に多い冷えや頭痛、肩凝りの他、顔の赤みで長年悩んでいる、起立性調節障害で困っている、悪夢ばかり見るのが嫌だなどの症状を訴え、学生から高齢の方まで幅広く来院されています。もともと東洋医学というのは、先人たちの膨大な人生の記録です。文献をひもとけば、毎晩のように床から抜け出して舞を踊る豪商の娘に飲ませた薬、しもやけに悩む15歳の女の子に塗った薬など、それぞれの薬に興味深い歴史があります。メカニズムを解明するすべがなかった時代から2000年の歳月をかけて、日本・中国・韓国でその時々に、その患者さんに必要に応じた薬が作られてきたので、さまざまな症状に対応できるのです。

現代医学との違いを生かし、共存する

現代医学と東洋医学の違いと、そこで感じる漢方の魅力を教えてください。

田中秀一院長 田中医院3

例えば頭痛を訴える患者さんに対して、現代医学では痛みを抑えるための薬を処方します。その薬は、これまで多くのトーナメントに勝ち残るように厳選されてきたものであり、多くの場合同じ症状なら同じ薬が選択されます。一方で「人を診る」のが東洋医学です。基本的に脈・舌・腹の診察と、歩き方や声の出方、目の色などを見て判断する「望診」によって、「陰と陽」「虚と実」で4つに分類し、それぞれに適した治療を選択します。東洋医学では訴える症状は同じでも、10人いれば10通りの薬を出します。これが、現代医学との大きな違いだと考えています。さらに、同じ人でも望診での分類は日によって違うので、適した薬は日ごとに変化します。自分自身がどんどんと知識を増やしながら、漢方薬の組み立てを考えて症状にアプローチできるところが、一番の魅力だと感じています。

漢方にとって現代医学とは「共存でき、見方を変えることもできる」と掲げられているそうですね。

はい。現代医学は「診断の医学」、東洋医学は「治療の医学」といえると思います。脈・舌・腹と視覚からの情報によって、その人の不調の出やすい場所や症状に合わせた薬を出すところまでが、漢方を専門とする医師の仕事です。しかし、東洋医学では検査の道具は持ち合わせていないので、腫瘍などの異常があるかどうかはCTやMRIなど、現代医学の力を使う必要があります。特に血圧・血糖・コレステロールの3つの検査は、現代医学でしっかりと確立されているので、当院の診察でも使いますし、必要であれば近隣の医療機関に紹介することもあります。命に関わる症状や進行する疾患を見逃さないことが医師としての責任であり、患者さんのためでもあるので、漢方を扱う医師も現代医学とうまく共存していかなければいけないと考えます。それを念頭に置いた上で、漢方を使った現代医学とは違う切り口での診療を提案しています。

漢方が、現代医学の診療の見方を変えることもあるのですか?

田中秀一院長 田中医院4

ええ。先ほど例に出した頭痛一つを取っても、雨の日に起こる頭痛、めまいを伴う頭痛、刺すような頭痛、おなかを壊しやすい人の頭痛、吐き気とともに起こる頭痛など、挙げ始めると切りがないほどに種類があります。その鑑別診断ができなければいけないことは前提ですが、これまで現代医学による痛み止めだけで対処していた人に対して、実は頭痛の根本的な原因は、胃の冷えではないか、血液の流れが滞っているからではないかといった、視点を変えた診断ができるのが漢方です。単純に頭痛という症状がそこに存在するわけではなく、角度を変えて患者さんを診ることで、頭痛を招く原因を探ります。病気を治すというより、その土台となる体のゆがみの改善をめざすイメージですね。これが漢方のとても重要な役割だと思います。

休日も漢方に向き合うのは、やはり「面白いから」

大学生に講義をされているとお伺いしました。

田中秀一院長 田中医院5

そうなんです。奈良県立医科大学の学生に話をしています。背景にあるのは、私が一緒に漢方の勉強をしている仲間たちの共通の意志である「若い人を育てたい」という思いです。今の学生は私たちの時代に比べて、かなり難しい試験をくぐり抜けてきているので、基礎学力が高いように感じます。そんな彼らに納得してもらえるような、質の高い講義でなければいけません。そのために普段から伝えたいことを集められるようにアンテナを張ることに加えて、若い学生たちに、漢方の世界に行きたい、漢方で診療したいと思ってもらえるような仕事をしていきたいと考えています。

ところで、休日はどんな過ごし方をされていますか。

当院が休診の日は、大阪の病院で外来の診療に出ています。それ以外は、漢方の勉強会やセミナー、講演など、とにかく毎日が漢方ですね。講演は呼ばれればどこへでも出向いていますが、学生の場合と同じく、参加者の皆さんに面白いと感じてもらえているのかは気になるところです。最近、参加者から「以前聞いた話が、とてもためになりました」「人生に影響を受けました」と声をかけていただくことが増えました。聞いていただいた方の腑に落ちる話ができていたのだろうと感じて、うれしくなりますね。

今後の展望を教えてください。

田中秀一院長 田中医院6

今一番面白いと思っているのは、漢方の外来です。どうアプローチすれば良いのかと考えを巡らせるような興味深い症例の方がたくさん来られるので、年齢を重ねても患者さんを診る機会は減らしたくないと思っています。漢方にできることはまだまだあるので、漢方で世間に福音をもたらしたいとまで言うと偉そうかもしれませんが、困っている人の助けになりたいですね。

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