加齢による物忘れと認知症の違いとは
知っておきたい認知症と検査
菊地脳神経外科・整形外科
(小金井市/東小金井駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
近年、認知症という言葉をテレビや新聞で目にしない日はないのではないだろうか。実際に厚生労働省研究班の調査によれば、今や65歳以上の4人に1人が認知症とその予備軍であると言われている。しかしこれだけ話題になっていても、認知症に関する確かな知識を持っている人はどれだけいるのだろう。加齢による物忘れと認知症は何が違うのか? どんな検査をするのか? 認知症は治療できないの? など、認知症に関する疑問は尽きない。そこで「菊地脳神経外科・整形外科」で物忘れの専門外来を担当し、認知症について詳しい菊地令子先生に、認知症の基本的なことや同院での認知症検査について取材した。
(取材日2016年2月26日)
検診・治療前の素朴な疑問を聞きました!
- Q認知症とは、どのような状態なのでしょうか?
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A
例えば人の名前がすぐに出てこないなどの物忘れは、年をとれば誰にでもあるでしょう。認知症は、このような加齢による物忘れとは違い、いろいろな要因によって脳の機能が低下し日常生活に支障が出ている状態のことを言います。認知症には、原因によっていくつかの種類がありますが、最も多いのはアルツハイマー型認知症、他に血管性認知症、レビー小体型認知症などがあげられます。脳梗塞や脳出血が原因となる血管性認知症は、それらの病気を治療することで回復が見込めますが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の場合は、現在は根本的な治療法がありません。しかし薬やリハビリによって進行を遅らせることは可能です。
- Q症状は、どのようなものですか?
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A
受診のきっかけとなる症状で多いのは、物忘れです。予定を忘れる、物を置いた場所を忘れるなどが代表的ですが、認知症による物忘れには特徴があります。例えば、「朝食には何を食べましたか?」と質問をすると、加齢による物忘れならヒントを与えられれば思い出すことができますが、認知症の場合は、何を食べたのかではなくて食べたこと自体を忘れています。また、直近のことは忘れてしまいますが、昔の出来事はよく覚えているのもアルツハイマー型認知症の特徴です。そしてそれらのことに本人は気がついておらず、家族に指摘されて来院する方がほとんどです。一方で血管性認知症の場合は、本人が自覚していることも少なくありません。
- Qどのような治療を行うのですか?
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A
血管性認知症など、治療が可能な認知症の場合は、その原因となっている脳梗塞や脳出血などの病気を治療することで回復が見込めます。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の場合は、現在は根本的な治療法がありませんが、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬と呼ばれる薬を投与することで、認知症の進行を遅らせることができます。また認知症では、介護保険などのサービスを利用して、なるべく支障のないような生活環境を整えることが重要になります。そして認知症の人との付き合い方にはコツがありますから、ご家族にも覚えていただき、本人も家族もストレスを溜め込まないようにすることが大切です。
検診・治療START!ステップで紹介します
- 1血液検査のための採血
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血液検査のための採血を行う。この血液検査では、甲状腺機能や血中ビタミン濃度測定など、通常の健康診断では行わない項目の検査を行い認知症の原因を探ることになる。特に高齢の女性に多いのが、甲状腺機能低下症によるうつ症状からくる物忘れだ。またビタミンB1やビタミンB12欠乏症でも認知症の症状が出ることがある。これらが原因による認知症の場合、投薬によって症状が改善するケースも多いという。
- 2頭部のCT検査で腫瘍や梗塞がないかチェック
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頭部のCT検査によって、血管性認知症の原因となる脳梗塞や脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などがないかを確認する。なお同院では、より詳細な情報がわかるマルチスライスCTで検査をするのに加え、もしこれらの問題があればすぐに診断して治療方針を決めていくという。手術などの処置が必要だと判断されれば、対応できる病院に紹介してもらうことになる。
- 3生活環境などを家族や患者本人に丁寧にヒアリング
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問診では、これまでの経緯を本人と家族から聞き取る。認知症の種類によっては本人に自覚がないので、家族など身近にいる人からの情報が鍵となる。認知症の場合は生活環境を整えることが大切になるので、かかりつけ医や飲んでいる薬の有無、薬がしっかりと飲めているのか、家族構成や誰が面倒を見ているのか、介護保険の利用についてなども確認して、問題があるようならケアマネージャーなどと一緒に環境を整えることになる。
- 4認知機能検査で進行度を確認
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認知機能検査では、まずミニメンタルステート検査を行う。これは簡単な質問や計算、言語理解や図形認識の11問からなるテストだ。また、うつが原因の認知症を確認するために、老年期うつ病評価尺度(GDS)も行う。認知機能検査と問診、血液検査、CT検査の結果を総合して認知症なのか、そうであればどの程度の認知症なのかを判断する。同院では、これらの検査と介護保険申請などを初診日に受けることができる。
- 5認知症の種類に応じた治療を受ける
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認知症の種類や原因が確認できたら、それぞれに応じた治療を行うことになる。血管性認知症を始めとする治療が可能な認知症については、手術や投薬治療、言語のリハビリなどを行う。またアルツハイマー型認知症などの根本的な治療が難しい認知症については、コリンエステラーゼ阻害薬などを投与し、認知症の進行を遅らせるようにすることもあるそうだ。また、複数の要因によって認知症が重なっているケースもあるという。