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高野 学美 院長の独自取材記事

貝坂クリニック

(千代田区/麹町駅)

最終更新日:2021/10/12

高野学美院長 貝坂クリニック main

東京メトロ有楽町線麹町駅近くのビル10階にある「貝坂クリニック」を訪れた。ドアを開けると受付や診察室ではなくオフィスのような机が並ぶが、それもそのはず、ここは在宅医療に特化した医療機関だからだ。院長の高野学美先生は2006年の開院以来、同じ町内での移転をしながら、千代田区を中心に通院困難な患者を中心に在宅医療を行い続けてきた。「今後ますます在宅医療の必要性が増すと思いますが、まだまだ一般の方の理解が不足しているのが現状です。特にがん緩和ケアへの理解が不足していると感じています。誰もがいずれは看取られる立場になるのですから、早くから在宅医療に関心を寄せてほしいですね」と話す高野院長。そんな高野院長に同クリニックの取り組みについて聞いた。

(取材日2018年3月2日)

疼痛緩和や胃ろう、人工肛門など幅広い領域をカバー

なぜ在宅医療に特化されたのでしょうか。

高野学美院長 貝坂クリニック1

開業前は越谷市にある大学病院で麻酔を担当し、緊急性のある救命手術のコーディネートやペインクリニックの外来診療などに携わっていました。慶應義塾大学病院でもさまざまな麻酔を担当していました。外科医師との連携を図り、スムーズな手術を行うノウハウがある程度身についたところで「では次、どうしようか」と考えました。麻酔科・ペインクリニックの医師としてできることは何か。これからの時代、何を求められているかを考えたのです。その頃、終末期の患者さんを病院ではなく高齢者施設で看取ることも多くなり、最期まで居宅でその人らしく生きることの大切さも感じていました。時を同じく新たな介護保険制度が導入され、高齢化社会への危惧が叫ばれ始めた時期でもありました。同じ医師である主人も医療業界の将来像を見据えて「これからの時代は在宅」と話していたこともあり、次のステップとして在宅医療に取り組もうと思い至りました。

具体的にはどんな医療を提供しているのですか。

診療内容は、在宅緩和ケアやがん疼痛治療、在宅酸素療法のほか、栄養管理では中心静脈栄養法や胃ろうの管理、あるいは人工肛門や人工呼吸器の管理など専門性の高い領域までしっかりカバーしています。在宅医療では受けられる医療が限られると誤解している方も多いですが、決してそのようなことはありません。以前、ある大学の地域連携室の室長さんが「自宅に帰せない疾患はない」と話していたこともあるように、急性期を終えたら自宅に帰して、病院と同様のケアを受けることができるのです。当クリニックでも、地域の訪問介護ステーションやケアマネジャー、居宅介護支援事業所などと情報共有して、患者さんが安心して療養生活を送るための医療を提供しています。また、24時間、東京大学医学部附属病院や東京慈恵会医科大学附属病院、がん研有明病院など、東京都内の約40の急性期病院と連携し状態が急変した際に早急に対応できる体制を整えています。

中でも麻酔科の専門性が生かされるのが疼痛の緩和ケアですね。

高野学美院長 貝坂クリニック2

そうですね。がん性疼痛や慢性の疼痛を取り除いてほしいというご要望がとても多いです。私は麻酔科での経験から、麻酔や医療用麻薬の使い方を熟知しています。どの痛みにはどの薬をどれくらい使用すれば危険性が低く、効果的か。万が一過剰摂取になった場合の対処の仕方も知っていますので、安心して緩和ケアを受けていただけると思います。麻酔科の医師は、言うなれば「命の番人」です。看取りとは真逆の位置にいるわけで、できるだけ患者さんには長生きしてほしいと願いながら緩和ケアを行っています。痛みは単に器質的なものによると思われがちですが、精神的な側面も深く関わっています。ですので、痛みを訴える患者さんにはメンタル面のケアも欠かさず行っています。

患者や家族の生き方を尊重し、診療のみならず心もケア

院長のポリシーを教えてください。

高野学美院長 貝坂クリニック3

「医療に家庭の安らぎを」です。この「医療」とは、医師が押しつけるのではなく、患者さんご自身が納得して選ぶものを指します。「家庭」とはご本人が今まで生きてきた日常を妨げないという意味です。最期の「安らぎ」は患者さんの希望を優先して、不要な不安、恐怖心を抱かせない姿勢のことです。これらのことは患者さんだけでなくご家族の方までも含めてのことです。在宅医療はいうなれば、患者さんの生活すべてを診ることと言ってもいいでしょう。ですが、患者さんやご家族は、ご家族ごとに生き方や価値観が異なります。100の家族がいれば100通りの考え方があります。皆さん人生経験も異なりますから、ご本人やご家族の考え方を尊重しながら、出過ぎず引っ込み過ぎずといった姿勢を大切にしています。

患者の生活を診るということは、難しい面もあるのではないでしょうか。

時にこちらのキャパシティが足りないと感じることもありますね。死期が近づきますと、患者さんはすべての生命力を振り絞ってすさまじいほどのエネルギーで迫ってくることがあります。しっかりとそれらすべてを受け止めて、これまでの経験を生かしながら最大限の努力をします。そうすると患者さん側も生きようとするエネルギーを生み出してくれます。いわば患者さんとのエネルギーの応酬ですね。がん末期の患者さんが何か他の炎症を併発した際には、放置せずその疾患を必ず治療しています。よくがんの末期だからと諦めて併発疾患を治さない場合もあるようですが、私は治るよう努力します。少しでも長生きしていただきたいですから、決して諦めません。

痛みへのケアもそんな診療の一環なのですね。

高野学美院長 貝坂クリニック4

在宅医療でめざすことは、患者さんがご本人らしく最期までご自宅で過ごすことですが、それを妨げる要因の一つが痛みです。人間の最大の苦しみともいえる痛みを放置することはやはりできません。医療用麻薬を上手に活用すれば、家族とコミュニケーションをとりながら最期まで暮らすことができます。そして最期を迎えた時には、ご家族の方が笑顔で「良かった」と感じられる、それが理想の看取りといわれています。笑顔は不謹慎と感じる方もいるかもしれませんが、最期までその人らしく生きられて良かったという安堵感や達成感から生まれる笑顔は、決して不謹慎なものではないと思います。

一般の人にも在宅医療への理解を広げていきたい

在宅医療への理解は進んでいるのでしょうか。在宅医療の課題としてどんなことがあげられますか。

高野学美院長 貝坂クリニック5

まだまだ在宅医療は正しく理解されていないですね。特に在宅でがんの緩和ケアなんてとんでもないと考えている人が多いようです。そもそも、在宅医療がどのようなものか知らない方が多いのではないでしょうか。まずは在宅医療に関心を持っていただきたいと思います。併せて行政や医師会が一般の方向けに講演会など啓発活動を行うことも重要です。在宅医療の一番の課題はケアスタッフが不足していることです。事業所もヘルパーさんを募集するのにとても苦労しているようです。いずれは誰しもが看取ってもらう可能性が高いわけですから、早い時期から介護に関する正しい知識を得ていただけるとうれしいですね。国や区では、一般の方々の中からサポートスタッフを要請する事業も立ち上げています。ぜひ参加していただきたいと思います。

先生は認知症サポート医も務められ、メンタルヘルスにも詳しいそうですね。

ここ数年の認知症患者の増加は著しいと感じています。2025年には患者数が700万人になるともいわれており、超高齢社会の問題もありますし、今から対策していかなければと思います。近年企業でのメンタルヘルスチェックも義務づけられ、働く人の心のケアが重要視されています。メンタル不調の兆候を早く見つけて、早く対処することが大切だと思います。もし家族が認知症やメンタル面の不調を起こした時にも一人ひとりの対応力とサポートしていく「介護力」が重要になります。

最後に今後の展望をお願いします。

高野学美院長 貝坂クリニック6

今後もさらに地域に密着した在宅医療を提供していきたいと思います。私は千代田区医師会の介護保険の取り組みにも携わっていますので、ご高齢の方々にとって近しい存在の医師でありたいと思います。千代田区は神田地区と麹町地区に大きく分けられるのですが、いずれも約5000人のご高齢の方が住まわれていて、ご高齢の方がさらに高齢になっていきます。在宅医療支援診療所も昔と比べて数こそ増えてはいますが、在宅医療が必要な患者さんの増加率には追いついていない状況です。そんな状況だからこそ、専門性を生かした緩和ケアなどの専門領域を含め、在宅医療でお困りの方々のお力になっていきたいと思います。

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