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辻 拓也 院長の独自取材記事

つじ眼科

(久留米市/西鉄久留米駅)

最終更新日:2023/12/06

辻拓也院長 つじ眼科 main

「つじ眼科」は西鉄久留米駅を最寄り駅とし、JR鹿児島本線・久留米駅からも車で10分の場所にある。久留米大学病院で眼科の外来医長を務めた辻拓也院長が開業。一般眼科疾患の治療の他、視力障害がある人の生活の支援を行う「ロービジョンケア」に力を入れているのが特徴で、「見えなくてもできることはあります。それらの具体的な方法を提案し、生活を豊かにするお手伝いをしていきたいんです」と笑顔を見せる。辻院長はこのほか、治療が難しいといわれる緑内障も専門とし、大切な視力を守るために早期発見に努め、早期治療につなげることに注力している。ユニバーサルデザインを取り入れたクリニックづくりや、視覚障害や視力低下を抱えている人へ伝えたいこと、そして、長年取り組んでいるロービジョンケアについて話を聞いた。

(取材日2023年10月12日)

ロービジョンケアを通じ、患者の生活を豊かにしていく

先生のご専門は緑内障とロービジョンケアだそうですね。

辻拓也院長 つじ眼科1

まず緑内障からご説明しますが、実は緑内障を専門とする眼科医は全国的に見ても決して多くなく、福岡県内でも同様です。それは緑内障が今の医療では完治しない、いつかは失明してしまう病気であることが要因の一つでしょう。それもあってかしっかりとした検査や診断が難しい場合があります。緑内障は40歳以上の20人に1人が発症するといわれており、自覚症状が出た頃にはかなり進行しています。ぜひ自分事として捉え、緑内障を専門的に勉強している眼科医を訪ねてほしいと思います。

眼鏡やコンタクトレンズをつくるついででも良いのでしょうか?

もちろんです。結膜炎や疲れ目などの一般的な眼科疾患をきっかけに「一度調べてみようかな」という感覚で十分です。緑内障は一度かかってしまうと悪いほうへしか進まない恐ろしい疾患ですが、例えば適切な治療を行うことで、悪化するスピードを遅らせることは期待できます。早期発見・早期治療が一番大切です。病気はご自分の身に返ってくるもの。ご自身で最初の一歩を踏み出す意識を大切にしてほしいと強く思います。

次に、先生がロービジョンケアに取り組むようになったきっかけを教えてください。

辻拓也院長 つじ眼科2

「ロービジョンケア」とは、視覚の障害のために生活に何らかの支障を来している人に対するサポートのことをいいます。取り組むようになったのは、数年前に再会した学生時代の後輩がきっかけです。後輩は当時20歳くらいでしたが、緑内障で視力がかなり落ちており、それを知って眼科の医師として強い無力感を覚えました。しかし、その後にロービジョンケアというものがあると知ったんです。ロービジョンケアはいわば生活を良くするためのリハビリテーションでもあります。近年、視覚障害をテーマにしたドラマなどで、白杖(はくじょう)や拡大読書機などが取り上げられ、一般の人にも広く知られるようになりました。しかし、患者さんにとっては「視覚障害者」とラベリングされるのは当然ながらショッキングなこと。そのショックを和らげ、サポートしていくことも眼科の医師としての大切な役割だと考えています。

さまざまな工夫で生活を豊かにするためのサポートを

院内にロービジョンケアルームがあるのは珍しいそうですね。

辻拓也院長 つじ眼科3

クリニックとしては全国的に見ても珍しいと思います。白杖も何種類も用意していて、有名スポーツ用品メーカーのものだと、持っても重さを感じないくらいに本当に軽いんです。また黒いお茶わんやまな板などもあります。視覚障害のある方以外にも、例えば高齢になるに伴って、ご飯粒が見えにくくなることがあります。でも黒い色のご飯茶わんを使えば白いご飯粒が見えやすくなります。他にも化粧品メーカーさんがお化粧をしやすいように化粧水、乳液などのケースに貼るシールをつくっていたりもします。そういったたくさんの“工夫”があるということをもっと気軽に知ることが、生活の豊かさにつながるのではないかと考えています。

先生も実際に使用されているそうですね。

こういった工夫は視覚に障害のある方だけではなく、障害のない方にも便利なんです。黒いまな板は特に重宝していて、野菜の大根や白身魚の刺し身を切るときなどに役立っています。ただ、こういう便利な道具があっても使い方がわからないと患者さんも困りますから、診察室の隣にロービジョンケアルームを設け、歩行訓練士さんとともに実際に触ってみたりしてもらうようにしているんです。それに医師である私自身が実感することも大切だと考えています。先日の東京出張では、私と車いすの方、見えない方、見えにくい方の4人グループで大型商業施設内を移動したんですが、見えない方が車いすを押し、車いすに座る方は見えない方の目になっている様子を見て、これこそが共生社会のあるべき姿だとあらためて感じました。

院内での教育相談も計画しているとか。

辻拓也院長 つじ眼科4

はい、今後行う予定です。近隣の特別支援学校の校長先生にかけあって、教育相談を院内で行えるようにしました。目が見えない・見えにくくなったお子さんが相談をするとしても、いきなり特別支援学校に行くのはハードルがありますよね。なので、相談の必要があるお子さんには「次の診察の時に学校の先生に来てもらうから話を聞いてみようか?」と声をかけるようにしようと思っています。小さな障壁を丁寧に減らしていけば、きっと患者さんの生活が豊かになる。黒いまな板やお茶わん、シャンプーとコンディショナーを区別するポンプのギザギザの部分などもそうですが、障害の有無に関わらず誰が使っても使いやすい「ユニバーサルデザイン」がもっと広がっていけばいいなと思います。

「視力が弱いから諦める」のではないと伝えていく

内装などの工夫についてもお聞かせください。

辻拓也院長 つじ眼科5

当院がめざすのは視覚障害に特化したユニバーサルデザインです。まずは音。当院のすぐ前にはバスの停留所があり、そこから当院の看板付近の歩道まで誘導できるよう音を鳴らしています。同じように玄関やトイレでも音が鳴っています。そして色。白や黒、黄色などのはっきりとした色は色覚障害がある方でも認識しやすいため傘立てなどに使っています。そして外観や私たちのユニフォームの紺色などの青系の色も、色覚異常がある方でもわかりやすいんです。また色と触覚の組み合わせもあります。駐車場から玄関まで歩くメインの場所は白、そうではないところは黒で、足に触れる感覚も変えています。これは院内も同じで、歩く場所は白いタイル、待合の床は黒っぽい色、そして壁に近い部分は黒色かつやわらかい素材を使ってぶつからないよう注意を促すようにするなど。患者さんが過ごしやすいクリニックであるよう、これからもアップデートしていくつもりです。

視覚障害のある方に伝えたいメッセージはありますか?

先ほどお話ししたロービジョンケアを知るきっかけになった後輩は、北京パラリンピックに出場し活躍しました。だからこそ伝えたいのが、諦めないでほしいということです。全盲の弁護士や医師もいますし、スポーツ選手になって金メダルが取れるかもしれない。緑内障は、今は治癒させることができませんが、いずれ医療が進歩すれば治せるようになるかもしれないし、ロービジョンケアで生活を豊かにするための工夫は今でもできます。目が見えない・見えにくくなったりしても、まだまだやれることがあるということは、必ず患者さんに伝えるように心がけています。そのためにも必要なのがさまざまな連携です。前述した教育相談の他、当院以外の医療機関でも患者さんの同意があればカルテを共有して切れ目なく医療が受けられるシステムを構築したり、就労支援を行ったりして、患者さんといろんな場所をつなげていきたいと考えています。

今後の展望をお聞かせください。

辻拓也院長 つじ眼科6

先日はイギリスに短期留学し、患者さんとの橋渡し役となって身体障害者手帳取得、視覚特別支援学校などとの連携を担うECLO(Eye Clinic Liaison Officer)という職業について学んできました。日本にはまだECLOのような資格はないのですが、自ら学んで実際に動いていくことが大事なのだと考えています。見えない度合いは人それぞれだとしても、どうすればその人にとって豊かな生活になるのかを想像し、治療や生活のヒントを提供していく。同時に緑内障といった専門的な治療もしっかりと行っていく。これが私が子どもの頃にめざした「お医者さん」の姿だと思っています。さまざまなことに取り組みながら「患者ファースト」な医療をめざしていきたいですね。

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