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酒谷 薫 先生の独自取材記事

きのうクリニック

(羽曳野市/古市駅)

最終更新日:2023/03/14

酒谷薫先生 きのうクリニック main

大阪府羽曳野市にある「きのうクリニック」は、内科・循環器内科・糖尿病内科・リハビリテーション科といった幅広い診療科目で、地域に密着した医療を届けるクリニックだ。訪問診療や栄養指導にも積極的に取り組んでおり、患者一人ひとりに寄り添った診療を行う。そんな同院が、更なる地域貢献をめざして2022年11月に新設したのが、東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻前特任教授であり、特任研究員の酒谷薫先生による「フレイル・認知症予防」の外来だ。高齢化社会の中で多くの人を悩ませている認知症だが、早期に適切な対応をすることで症状を抑えたり、遅らせることも期待できるという。今回は認知症予防の前線で戦う酒谷先生に、フレイル・認知症予防の外来について、認知症の未来について詳しく話を聞かせてもらった。

(取材日2023年2月24日)

認知症リスクと予防方法を、多くの人に広めたい

フレイル・認知症予防の外来を担当されることになった経緯を教えてください。

酒谷薫先生 きのうクリニック1

私は脳神経外科医として研鑽を積み、2019年からは東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻で特任教授を務めました。特任教授を退任後、現在は特任研究員として研究を行っています。長くて難しい研究科ですけども、研究のテーマは認知症に関することで、特に認知症と全身性代謝状態との関連についての研究です。皆さん、認知症というと「治らない」「対処のしようがない」と思っていらっしゃいますが、私たちの研究によると、運動や食事を含めた全身の状態と認知症には非常に深い関連があることがわかってきています。現在は健診のデータをもとにAIを使って認知症のリスクを分析できるようにするための研究を進めています。そこで、より研究を深めつつ、認知症の早期発見や予防に貢献したいなと考えていた時に喜納直人院長にご縁をいただき、こちらで専門の外来を開設させていただくことになりました。

現在、外来にはどんな患者さんがいらっしゃっているのですか?

男女比は同じくらいで、高齢者とそのご家族に受診いただいています。一般的にですが、認知症の外来をご本人がすすんで受診してくださっている場合はあまり心配ないことがほとんどかと思います。逆に、ご家族に無理やり連れられてきたり、本人が受診を拒否するからとご家族だけで受診される場合は症状が進んでいることも多いです。私としては、できれば認知症の初期、いやもっと前の段階に受診いただいて予防に役立ててもらえればと思っていますので、40代、50代のまだまだ若い世代の皆さんにも一度受診をいただきたいと考えています。

受診にはネガティブなイメージがあるのかもしれません。

酒谷薫先生 きのうクリニック2

そうなんですよ。例えば、誰もががんは怖い病気だと思っているけれど「早期発見できたら治療できる場合が多い」と知っているじゃないですか。だから、皆さん積極的に受診されます。しかし、認知症は? というと、「年を取ったら仕方がないもの」「治療や予防ができないもの」と思っている人が多いんですよ。それに加えて「認知症は家族や周りに迷惑をかけてしまう」と思ってしまう。だからみんな認知症が怖いんです。怖いから避けてしまうのですが、私としては「怖いからこそ早めに手を打ちましょう」とお伝えしたいです。誰もが年を取りますし、物忘れだって誰にでも起こります。人生100年時代といわれる今だからこそ、認知症に向き合い、上手に発症を予防することが大切です。

薬物療法だけでなく、前向きな心とふれあいが重要

認知症にはどんな治療方法があるのですか?

酒谷薫先生 きのうクリニック3

認知症を完治させる治療法は確立されていませんが、その他の病気と同様に早期発見・早期治療に努めることで病状の進行を遅らせることはめざせます。主な治療方法は薬物療法で、アルツハイマー型認知症の場合は、脳の神経細胞が壊れることで起こる症状を改善する目的の薬と、不安や興奮などの周辺症状を抑えるための治療薬を使用します。血管性認知症の場合は、脳血管障害を再発させないよう、脳血管障害のリスクである高血圧や糖尿病、心疾患を薬でコントロールしていくことをめざします。また、うつ症状なども認知症の症状の一つ。そういった場合は、抗うつ薬などが使われることもあります。いずれにせよ、より早い段階から開始することで改善が期待できます。

薬物療法以外に、方法はないのですか?

私が皆さんにお伝えしたいのが、まさに薬物を使用しない対処法です。たとえ認知症と診断されたとしても、患者さんが自分でできることはたくさんあるんですよ。昔の出来事を思い出してみたり、楽しめる範囲での音読やドリルも良いですね。ただ、一番大切なのは心満たされる暮らしをすることだと思います。そのために、自分自身の役割や出番をつくること。ご家族と同居であっても、お皿を洗うとか、洗濯物を畳むとか、些細なことで構わないので仕事をしてほしいと思います。ご家族も危ないからとすべてを取り上げてしまうのではなく、任せられることを任せて「ありがとう」と声をかけてほしい。誰かに感謝されることは心の大きな栄養で、それは小さな子どもも高齢者も変わりません。

明るく前向きな心が大切になってくるんですね。

酒谷薫先生 きのうクリニック4

認知症予防もフレイル予防も「何かをしたい」と思う意欲が大切なんですよ。仲間とウォーキングしたい、おいしいものを食べに行きたい、好きな音楽を聴きに行きたい、カラオケを歌いたい。当たり前の日常が、患者さんの心を元気にしてくれます。心が元気になれば自然に運動もできますし、楽しい食事が良い栄養になります。楽しさは脳を活性化し、残っている認知機能や生活能力を高めることに役立ちます。一人での運動が難しければ、当院のリハビリ室で運動に取り組んでも良いですね。また、当院が主催している「健康教室」などに足を運んでいただくのも良いです。コロナ禍で難しくなっていましたが、人とのふれあいは認知症やフレイルの予防に重要です。

フレイルや認知症に悩む必要がない未来をめざして

認知症予防に取り組むようになったきっかけはなんですか?

酒谷薫先生 きのうクリニック5

中国に赴任していた時に、中医学の先生と知り合ったんです。ある時、その先生から「良い医者とはどんな医者だと思う?」と質問され、私は「難しい病気を治すことができる医者だ」と答えました。そしたら「中医学では、病気を治す医者ではなく、病気にならないようにする医者が良い医者なんだ」と言われ大きな衝撃を受けたんです。病気を治すことはもちろん大事。でも、病気にならないようにできたら、それが一番良いに決まっています。中医学では、病気とはいえないまでも軽い症状がある状態を「未病」と言います。私は未病を「ストレス」だと理解しました。そう考えれば、脳神経分野でもできることもたくさんあると思い、そこから医師として自分にできることへの探求が続いています。

現在は東京と大阪を往復される日々だと伺いました。

月、火、金、第2土曜日の午前中は外来を担当し、水曜日と木曜日は東京大学にいます。往復は大変そうに思えるかもしれませんが、移動は新幹線なのでそれほど大変でもなく、意外と快適に移動しています。自宅は神戸にあるのですが、通勤時の運転も楽しんでいますよ。それに外来で患者さんにお会いするのも、大学での時間もどちらも素晴らしい時間です。認知症は病気ですが、患者さんにとっても支えるご家族にとっても難しい側面がある病気。今、私たちが取り組んでいる研究がより進歩し、一人でも多くの方が認知症を予防できるようになれば、つらい思いをする人は減っていくはずです。そんな未来に向かって、これからも診療に研究に全力で取り組んでいきたいです。

それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

酒谷薫先生 きのうクリニック6

認知症だと診断された時、ほとんどの人が「家族に苦労をかけたくない」と思うでしょう。その気持ちはとても自然で、誰もが共感する感情だと思います。だからこそ、治療や支援を受け入れ、少しでもみんなが笑って暮らせるようにしていきましょう。また、大切な家族のために自分自身のリスクを知り、適切な運動や食事に取り組んで予防に努めていきましょう。今、まだ心配するには早い年代の方々でも、健康診断の結果があれば自分のリスクを知ることができます。そう遠くない未来に、認知症は怖い病気ではなく、予防できる病気へと変わっていくはずです。誰もが生き生きと生き、優しい気持ちでふれあえる日々が実現すれば、フレイルについて悩む必要もほとんどなくなると思うんです。もし今、「認知症かも?」と悩んでいる人がいれば、ぜひ受診していただきたいと思います。

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