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井上 登太 院長の独自取材記事

みえ呼吸嚥下リハビリクリニック

(亀山市/亀山駅)

最終更新日:2021/10/12

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック main

亀山駅から車で約10分、亀山市アイリス町の住宅地に位置する「みえ呼吸嚥下リハビリクリニック」。呼吸リハビリテーションや嚥下障害について全国でセミナーを行っている井上登太(とうた)院長は、豊富な知識を生かして重度の呼吸不全や嚥下障害に悩む患者などを受け入れている。広い敷地には、クリニックや入院病棟、そして勉強会を行う建物やデイケア施設などが建ち並ぶ。患者の幸せを最優先とする同院は、和気あいあいとしたアットホームな雰囲気の中でケアを行うことで、患者を自宅に閉じこもりにしないことをめざしている。自身の経験から地域医療にこだわりを持つ井上院長に、その理由や同院の特徴を聞いた。

(取材日2020年8月27日)

地域の温かさを大切に、重傷の患者にも手を差し伸べる

医師をめざされたきっかけをお聞かせください。

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック1

以前は漠然と人に感謝され、その声が聞ける仕事に就きたいと考えていました。医師になろうと決めたのは高校生の時、心筋梗塞で突然倒れた祖父が人工呼吸器をつけたまま亡くなるのを見たのがきっかけです。祖父の死が受け入れられず、重傷の人をどうにかできないのかと考え、医学部をめざす決意をしました。その後、大学では細かいことが好きたっだので眼科にも興味を持ちましたが、ちょうど就職するときに、肺に大きな腫瘍が見つかり悪性かもしれないと言われすごく悩んだんです。結局、腫瘍は経過観察中に縮小傾向になり問題ないと判断されましたが、自分が経験したことに少しでも関わりたいという気持ちから、呼吸器系に進むことにしました。そして研修のときに、呼吸不全や肺がんの人が苦しそうにしているのを見て、やはり重傷の方に手を差し伸べたいと考えるようになっていきました。

こちらは有床診療所として、入院も可能だとか。

最初当院は、地域の小さな診療所としてスタートしましたが、もともと重傷の方をどうにかしたいという想いがありました。人工呼吸器をつけた方や重傷の嚥下障害の方を受け入れるためには病棟が必要だと考え、有床診療所としての機能を整えました。病棟は専門的な治療を受けながらも、ご自宅にいるような感覚でいられるようにとほとんどが、半個室になっています。患者さんは高齢の方が多いですが、さまざまな器具を装着している方もいますので、プライバシーにも配慮したいと考えました。しかし決してコミュニケーションを取らないわけではなく、患者さんたちはスタッフも含め和気あいあいとしたアットホームな雰囲気の中で過ごしていただいています。先日も患者さんのご家族が新米を持ってきてくれて、みんなで食べるなんてこともありましたよ。

「グリーンタウングループ」を立ち上げた経緯を教えてください。

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック2

私が四日市の県立医療センターにいたときに出会った先生と2人で呼吸リハビリテーションを一緒にやってみよう、となったのが始まりです。同センターには、重度の呼吸器不全の方がいましたが、当時は呼吸リハビリテーションは保険対象外で、とても高額だったんです。その方たちをどうにかしたいという想いで勉強を重ね、三重県で呼吸リハビリテーションの勉強会を立ち上げることになりました。呼吸や嚥下に関する勉強会を年間60~70回程度行い、トータルの参加者は3000~4000人くらいになっていきました。そしてもっと知識や技術を高め、この動きを継続するために2008年に「NPO法人グリーンタウングループ」を設立しました。教育と地域啓発はNPO法人で行い、当院では自分の手で患者さんに医療を提供しています。

スタッフ全員の総合力で病と戦う患者を支える

建物が複数ありますがどのように活用されていらっしゃいますか?

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック3

敷地は800坪あり、リハビリ施設や休憩所、病棟などさまざまな目的の建物があります。また、それぞれの建物はバリアフリーになっています。休憩所は、会議や勉強会を行う場所としても活用しています。勉強会では、呼吸リハビリテーションや摂食嚥下障害について、私が研鑽を積んで得てきた知識や技術を看護や介護に携わる方々と共有しています。敷地内のこだわりポイントとしては、“ケア”と、“閉じこもりにしないこと”の2つを両立させていくために、寝たきりの方も人工呼吸器を装着した方も診察にいらっしゃる際は、季節の移り変わりを肌で感じたりできるよう、通路にある小さな畑で育っている旬の野菜が育つ様子も見られるようにしていることでしょうか。

スタッフについて教えてください。

明るいスタッフばかりですよ。患者さんから見て、何でも相談できる存在であってほしいので、何か患者さんに伝えることがあるときも、スタッフから言ってもらうことも多いです。患者さんに関する情報で共有すべきことは、インカムですぐに共有するようにしており、私からもスタッフからも発信できるようになっています。インカムで伝えた内容は、私と看護師だけでなく受付やケアマネジャー、リハビリスタッフや介護士などスタッフ全員に伝わるようにしています。また複数あるモニターからも情報を得ていて、私は待合で呼ばれた患者さんがどんなふうに立ち上がるかなどまで見るようにしているんですよ。些細なことでも重要な発見につながることもありますからね。

どんな検査ができるのでしょうか。

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック4

超音波検査では、心臓や腹部、甲状腺の検査が可能で、ベッドサイドや訪問先で使用するポータブルタイプの超音波検査機器も用意しています。また、他の医院にあまりないものですと、血液ガス分析装置や呼気ガス分析装置があり、呼吸不全や低酸素血症の検査を行っています。他にも睡眠時無呼吸症候群の検査では、簡易検査から終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査まで対応しています。今は検査機器が小さくなっているので、検査時の寝づらさも改善されています。また嚥下については嚥下造影検査と気管支内視鏡検査に加え、食事の時の呼吸パターンを測定して見ているだけではわかりにくいところまでチェックします。普通に食べているように見えても、実は低酸素状態になっていたり肺に入るのをこらえていたりするので、それが何回起きているかまで測定しています。

患者が幸せと感じることを最優先し、寄り添った医療を

患者と接する際に心がけていることは?

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック5

患者さんと近くあることです。例えば患者さんの髪をとかしてあげたり、触れてあげたりと一歩踏み込んで接することで心を開いてもらえると考えています。症状の変化については医師に話してくれますが、家庭環境の変化などはなかなか話してもらえないと思います。しかしもっと患者さんと近ければ、いろんな話をしてくれるので次に起きることを予測し治療に生かせるものもあると思います。また終末期医療にも対応していまして、患者さんが亡くなられた後に写真アルバムを作ってご家族にプレゼントして、毎年慰霊祭も行っています。そうして、人と人とのつながりを大切にしていきたいですね。

地域医療にこだわる理由をお聞かせください。

一番大きいのは、私が三重県熊野市という医療が発達していない田舎で生まれ育ったことです。自治医科大学を卒業してへき地に赴任した時に、誰か具合が悪くなったとき、近所の引退された看護師とか元医療関係者が診て助け合うんです。「家で最期を迎えたい」という人がいたら、その希望をかなえられるよう近所の人が協力してくれることが昔はよくありました。今は地域に元医療関係者があまりいなくなり、そういった風習がなくなってきました。そういう様子を見てきて、自分が手を差し伸べられる人間になりたいと思ったんです。助け合っていた温かい人たちの仲間になりたかったんでしょうね。その経験が地域医療にこだわりたいという想いにつながっています。だからなかなか大きな病院に行けず、自宅で苦しい想いをしている人たちの苦しみを少しでも和らげたくて開業したんですよ。

今後の展望についてお聞かせください。

井上登太院長 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック6

これからも診療を通して、地域の人たちに温かな医療の提供を続けていきたいと思っています。以前、医師会の先輩に「3代続けろ」とアドバイスをもらったことがありましたが、今はその意味がすごくよくわかります。当院では慰霊祭など亡くなった患者さんを忘れない工夫をしています。記憶がつながれば人もつながるので、当院はその架け橋であり続けたいですね。まだ開業して10年程度ですが、すでに待合室が同窓会状態のときもあるほどつながりができてきているんですよ。自力での通院が難しくなったときは、無料でお迎えもしていますので、病と戦う患者さんに手を差し伸べ続けていきたいですね。

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