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木村 年秀 所長の独自取材記事

まんのう町国民健康保険造田歯科診療所

(仲多度郡まんのう町/琴平駅)

最終更新日:2024/02/14

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所 main

山間部や離島などの無医・準無医地区で医療を提供する、国民健康保険直営診療施設(国保直診)の1つ「まんのう町国民健康保険造田(そうだ)歯科診療所」。所長である木村年秀先生は、同所が民営化された2015年に所長に就任。以後は積極的に訪問診療に取り組みながら、移動手段のない高齢者を対象とした「お買い物ツアー」を企画するなど、歯科診療の枠に留まらない幅広い支援で、地域住民の心と体の健康維持に貢献してきた。過疎化・高齢化が進む地域社会の課題は多い。しかし、「患者さんが最後までこの地域で安心して暮らせるように、力を尽くしたい」と木村所長は語る。確固たる意志と信念を持って、地域医療にその身を捧げる木村所長に、これまでの歩みを聞いた。

(取材日2024年1月15日)

予防歯科・高齢者歯科の分野で豊富な経験を有する

歯科医師を志した、そもそものきっかけからお聞かせください。

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所1

農業試験場に勤める研究員だった父から、医療職に就くことを勧められたからですね。ひょっとしたら、将来自分を診てもらいたいという思惑があったのかもしれません(笑)。当初は広島大学の歯学部に進学するつもりだったんですが、広島よりも近い岡山で歯学部が新設されると聞いて直前に志望校を変更し、岡山大学歯学部の1期生として入学しました。卒業後に専門性を深めたのは、「予防歯科」と呼ばれる分野です。大学の予防歯科学講座で助手を務めながら、歯科疾患の予防について実践研究を重ねました。こうした講座は全国の大学に存在しますが、岡山大学の場合は歯周病の予防が主な研究テーマでしたので、虫歯の予防に注力する大学が多い当時としては、かなり先進的だったと思います。歯科医師になって6年目の年からは大学を出て、島根県美都町の国民健康保険歯科診療所へ赴任することになりました。

国民健康保険直営診療施設(国保直診)とは、どのような施設ですか? 誰でも受診できるのでしょうか。

もちろん、どなたでも受診可能です。国保直診は、山間部や離島といったへき地に医療を提供するための施設で、全国におよそ800ヵ所あります。歯科はそのうち約170ヵ所に開設されており、私が赴任した島根県の歯科診療所もその1つでした。国保直診が設置されているところは、医師・歯科医師不足や過疎化、高齢化が進んだ地域です。交通手段がないなど、通院そのものが困難なケースも多く、こうした地域では日頃からの「予防」がより重要とされますので、予防歯科を専門にしている私が採用されました。

島根県の歯科診療所では、どのような取り組みを?

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所2

子どもたちの虫歯をなくすことを目標として、フッ化物洗口の実施に取り組みました。まだフッ化物の利用は危険だと誤解されている時代で、周囲の説得には苦労しましたが、役場の方やPTAの方などが力を貸してくださり、山陰地方でも早くからフッ化物洗口を実現できました。当時、私は29歳。地域における歯科保健活動の楽しさを知ったのは、この時からですね。また国民健康保険診療施設協議会で、80歳の高齢者の口腔状況と生活環境、さらには医療費を調べるという大々的な全国調査が行われた際には、私も約100軒の個人宅を訪問し聞き取り調査にあたりました。アナログ作業で大変な思いもしましたが、最後には約8000人分のデータを集め、「歯が多く残っている人ほど、医科の医療費が少ない」という結論を導き出すことに成功。この調査によって、歯の健康が全身の健康につながるという事実と、日頃の口腔ケアの重要性を国に立証することができました。

歯科の枠を超え、さまざまな角度から地域医療に貢献

三豊総合病院に赴任された経緯もお聞かせください。

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所3

高齢者実態調査をきっかけとして、同じ国保直診の三豊総合病院からお招きいただきました。当時の三豊総合病院は、約500床の病床数を持つ県内でも数少ない中核病院。通常は急性期の医療を提供する場所ですが、地域医療拠点として在宅医療にも取り組んでおり、なかなか手が回っていなかった訪問歯科診療を担う人材として、私にお声がかかったんです。今でこそ一般的な訪問歯科診療も、約30年前の当時はまだ浸透しておらず、私もほとんど経験がありませんでした。しかし、訪問調査の中で寝たきりの方や、受診したくてもできない方が相当数いらっしゃることを実感していましたので、「予防歯科活動と並行する形なら」と言って、お話をお受けしました。こうして三豊総合病院に設置されたのが、歯科保健センターです。歯科医師たった一人でのスタートでしたが、歯科保健センターでは以後19年にわたって、訪問診療にこの身を捧げる形となりました。

歯科医師として、これまでに大きな影響を与えられた出来事はありますか?

三豊総合病院にいた頃、訪問診療に同行してくれた看護師さんが「先生、8020運動はもうやめないといけませんね」とおっしゃったんです。8020運動は、80歳になっても20本以上の歯を残そうという運動ですが、訪問診療に伺うお宅では、ご本人も、介護をするご家族も口腔ケアにまで手が回らないのが現状。歯があればあるほどお口の中が虫歯でボロボロになり、かえって悲惨な目に遭われているという状況でした。「これなら、歯がないほうがいいんじゃないか」というわけです。私たちは歯を残すことだけにこだわり、その後のことを考えられていなかった。歯を残した後も、最後まで健康な状態を維持できるような環境をつくらないといけない。地域の中で、そういうシステムづくりをしなければいけないと、強く感じた出来事でした。今でいう「地域包括ケアシステム」ということですね。

民営化に伴い、2015年からはこちらの所長に就任されました。当時と現在とで、地域の変化はありますか?

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所4

まんのう町琴南地区は年々過疎化が進み、今では人口の半数以上が65歳以上となりました。当診療所の患者さんも、大多数はご年配の方々です。そのため毎週火・水・土曜の午後には、まんのう町全域と三豊市の一部で訪問診療を行っており、外来診療においても、無料の送迎サービスを実施しています。定期的に企画している「お買い物ツアー」は、毎回30人ほどの参加者が集まるなど好評です。実際にお店に足を運んでお買い物をすることがリハビリテーションや認知症の予防につながったり、買ってきたものを全員で一緒に食べることが口腔機能の向上につながったりと、移動販売や宅配サービスでは得られない、さまざまな利点があると感じています。

最後まで安心して暮らせる町をめざして

積極的に地域の方々とコミュニケーションを取られているんですね。

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所5

医療というものは、単に治療の技術や知識を患者さんに提供するだけではないと思っています。患者さんを取り巻く社会的な環境を含めて改善していかなければ、体の健康も、心の健康も維持することはできません。医療機関を受診したくても交通手段がない、交通手段がないから買い物にも行けない、買い物に行けず友達もいないから、家で孤立し低栄養化が進む……。私は患者さんとの対話の中で何か課題が見つかれば、地域の他職種の方々と連携を取り合いながら、少しずつでも解決に導きたいと考えます。「誰かが解決してくれるだろう」ではなく、私たち自身が社会にアプローチを続けること。社会における、人と人とのつながりを大切にしていくことが、今後はさらに求められていくのではないでしょうか。

もしよければ、先生のご趣味などもお聞きしたいです。

趣味はいろいろとあります。中でも絵が好きで、若手の作家さんを応援するために画廊で作品を購入したり、作家さんと直接コンタクトを取って、作品を描いてもらったりしています。診療所内にも展示している作品がありますので、よかったらご覧になってみてください。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

木村年秀所長 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所6

私ももうそこそこの年齢になりましたので、若い先生に引き継ぎをする準備をしていきたいですね。進行する過疎化に伴い、いつかは診療所を維持できなくなる時代が必ず訪れるでしょう。そういう時代も想定しながら、歯科医療体制を継続させる方法をしっかりと検討していくつもりです。できないと言うのは簡単ですが、できるように努力をしていくことが私のモットーです。これからも地域のお困りごとや、地域の課題だと感じることを解決できるよう努め、患者さんが最後までこの地域で安心して暮らせるよう、力を尽くしたいと思います。私でお役に立てることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に解決をめざしていきましょう。

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