石井 修 院長の独自取材記事
東山田クリニック
(横浜市都筑区/東山田駅)
最終更新日:2023/12/26
東山田駅から徒歩3分の場所にある「東山田クリニック」は、外来診療に加えて、緩和ケアも含めた訪問診療にも力を注ぐ地域密着型クリニック。院長を務める石井修先生は大学病院の総合診療内科や介護老人保険施設での施設長の経験も有し、専門に限定することなく、複数疾患を抱える高齢者も総合的にサポートする。「訪問診療においては患者さんやご家族が望むことを尊重し、より良い診療に導けるよう努力しています」と院長。今回はそんな同院の訪問診療にフォーカスし、同院の診療の特徴や理念、訪問診療を検討中の人へのメッセージなどを聞いた。
(取材日2023年11月14日)
訪問診療は、患者の声に丁寧に耳を傾けることが大事
先生が訪問診療において大切にしていることを教えてください。
患者さん本人やご家族が、何を望んでいるかを尊重することです。私たち医師に対しては本音を言えないこともあるでしょうから、普段から患者さんと接しているケアマネジャーや訪問看護師にも、訪問診療開始前に患者さんの状況を伺うようにしています。同意書を交わす際には、医師ではなく相談員という職種のスタッフが訪問してお話を聞くようにもしています。そして初診時は、十分な時間をとって医師が話を聞きます。そうして得たさまざまな情報を交え、その方に適した診療計画を考えます。
しっかり話を聞くことが重要なのですね。
はい。例えばがんの患者さんが「施設や緩和ケア病棟に入りたい」と仰っていても、よくよく話を聞くと、家族に迷惑をかけたくないからそう決めたのであって、本当は自宅で過ごしたいと思っていることもあります。麻薬などを嫌がる方も少なくないのですが、なぜ嫌か聞いてみたら「近日中に大切なイベントがあって、そこで意識がもうろうとするのが怖い」という理由があったり。そうした理由をきちんと聞けば、解決策を導けることがあります。本人が何をしたいのか、そして本人がなぜ拒むのかを聞くことが大切です。
患者さんの不安を軽減するために、工夫していることはありますか?
なぜ不安かを聞いた上で、「大丈夫ですよ」と声をかけて差し上げることですね。最近はインフォームドコンセントといって、医師が選択肢を提示して患者さん自身に選んでいただくスタイルがスタンダードとなっています。しかし情報を与えるだけでなく、自分の指針に沿って患者さんにベストな方法をご提案するまでが、医師の役目だと私は考えています。この薬を飲んだほうがいいのか、点滴すべきか、患者さんが迷うこともあるでしょう。そんなときは薬や点滴のメリットも説明した上で、「このほうがいいのでは」と、専門家としての意見もお伝えします。
訪問診療の対象になるのはどんな人でしょうか。
基本的には、一人で外来への通院が困難になった方です。困難になるのには、さまざまな場合が考えられます。例えば日常生活は問題ないけれど外に出るのは難しい方、家の外に非常に急な階段があって降りられないといった住環境に起因するケースも。ADL(日常生活動作)だけで判断せず、訪問診療を提供したいと思っています。なお訪問診療とは月に1~2回、定期的に自宅等を訪問して診察することです。一方、往診は予め予定が決まっておらず、病状が変化した時に応じてご自宅で診療をすることをいいます。往診に関しては、24時間365日対応します。
総合内科診療の経験を生かし患者をトータルサポート
こちらのクリニックの訪問診療では、どのようなことができますか?
健康管理や薬の処方、血液検査や超音波検査に加え、在宅酸素療法、中心静脈栄養、胃ろう・膀胱留置カテーテル・人工肛門の管理、がんのお看取りまで、患者さんが思っているよりも多くのことができます。訪問診療を受ける高齢の方は複数の疾患を抱えていることが多いため、総合的に診られる医師が適していると思います。私はこれまで大学病院で総合診療内科での診療を経験していますので、その点はご安心いただけると思います。
訪問診療と外来診療との違いや特徴は何でしょう。
外来は午前中だけで何十人も診ることもあるため、どうしても診療時間が限られてきますが、訪問診療では十分に時間を取ってお話を伺い、診察することができます。待合室で長時間待つよりも、ご自宅で待てるほうが患者さんの負担も少ないですよね。そして、24時間365日、対応してもらえるという安心感ではないでしょうか。普段はなんとか外来に通っていても、感染症などで具合が悪くなると歩けなくなり、慌てて救急車を呼ぶ方も。そんな時、訪問診療のありがたみを感じていただけるのではないでしょうか。あとは外来診療よりも、患者さんへの理解が深まることでしょうか。患者さんの家に薬がたまっているのを見て、薬を飲めていないことに気づいたり、家の様子を見て認知機能の具合がわかったり。そうした情報が診療に役立つことがあります。
入院との違いも教えてください。
訪問診療は住み慣れたわが家で暮らせること、地域で見守ってもらえる安心感でしょう。入院すると病室の近くにナースステーションがあり、看護師や医師が駆けつけてくれます。訪問診療は、病室が自宅に、自分のいる病院が地域全体になるとイメージしてください。入院中はナースコールを押して看護師を呼びますが、訪問診療は訪問看護ステーションへ電話して、必要であれば地域の医師が駆けつける。地域全体で患者さんを支えるイメージです。「ケアマネジャーや訪問看護師など多職種が連携した一つのチームが、自分を支えてくれる」と思えば、より安心していただけるのではないでしょうか。
地域のさまざまな職種で一つのチームになっているのですね。そのチームに対する想いを教えてください。
当院では総合的な視点で患者さんを診ていくことが可能ですので、病院の地域連携室の方がもし退院する患者さんの在宅医療を考える際は当院にお気軽にご連絡いただけたらうれしいですね。また、在宅医療では訪問看護ステーションの看護師さんとの連携も大切です。患者さんは医師に対しては身構えてしまってなかなか言えないようなことを看護師さんには言えることもあると思うのです。ですので、お互いに情報を共有しながら連携していくのが大切だと思っています。そして、医療と福祉、両方の考えを持って間のバランスを取ってくださるのがケアマネジャーさんですね。私は以前に介護老人保健施設の施設長を務めた時、医療と福祉の違い、そして両方を理解することの重要性を痛感しました。ケアマネジャーさんの意見も積極的にお聞きしていきたいので、気軽に連絡をし合えるような関係でいたいですね。
みんなが「これで良かった」と言える手伝いがしたい
先生の訪問診療におけるポリシーを聞かせてください。
訪問診療に限らず外来でもそうですが、原則はお断りをしないように心がけています。基本的に、「あの人はいい患者さん」とか「この人はちょっと困る」といったような「いい」「悪い」はあくまで医療者側の問題であって患者さまには何の関係もありません。私たちは患者さんが困っていることに対して、どれだけ対応をしてあげられるのかが大切です。その対応力を高めることを、当院では大切にしています。
訪問診療を受ける際の医療機関を選ぶポイントを教えてください。
もしかしたら、ご本人たちだけで選ぶのは難しいかもしれません。インターネットで他の人の意見を見たとしても、ご自分が同じことを感じるとは限りませんからね。最初に選んだ医療機関が合わないと感じた場合は、別の医療機関に変える選択肢があるのだと思っていただければ、安心かもしれません。医師との相性もありますから、ご自分が納得できる医療機関をじっくり探していただければと思います。
訪問診療を検討している人へ、アドバイスはありますか?
他人が自宅に入ることに抵抗があり訪問診療をためらう患者さんもいらっしゃいますが、当院では無理強いせず、可能であれば玄関で診療を行うこともします。経済的な不安を抱えている方へは、行政の支援制度を説明することで少しでも不安を緩和できるよう努めますので、まずはご相談ください。
読者にメッセージをお願いします。
私たちの意見を押しつけることは決してしませんが、専門家として患者さんを導くことも大切な役目だと考えています。そのバランスをうまくとり、各家庭の事情や生活環境を考慮し、患者さんやご家族が望む診療を提供できるクリニックでありたいと思います。最終的には患者さんやご家族が「これで良かったね」と言えるお手伝いができればと思っています。自分たちだけで抱え込まず、お気軽にご相談ください。