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慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 教授 青木 大輔 先生

こちらの記事の監修医師
慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
教授 青木 大輔 先生

ちょこれーとのうほう(らんそうしきゅうないまくしょうせいのうほう) チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)

概要

チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)は、本来、子宮の内側にあるはずの子宮内膜が、卵巣に発生することで起きる子宮内膜症の一つです。嚢胞とは液体などの内容物を含んだ袋状の病巣のことですが、卵巣では古い血液がチョコレートのようになって、中にたまった嚢胞ができることから、「チョコレート嚢胞」と呼ばれています。子宮内膜症は20~30歳代の女性に多い病気で、生殖可能年齢の約10%にあるとされています。子宮内膜症はほとんどの場合は良性ですが、チョコレート嚢胞はだんだん大きくなり、骨盤内の他の臓器と癒着し、痛みなどの症状が重症化します。まれに卵巣がんになる場合もあります。不妊症を引き起こすことも多いので、産婦人科の医師に相談してください。

原因

子宮内膜は受精卵、胎児を包み込んで育てる膜のような組織で、通常は子宮の内腔にしかないものですが、これが卵巣をはじめとして、腹膜、子宮と直腸間のくぼみ、腸など骨盤内のさまざまな臓器、時には骨盤外の肺などにも発生して障害を起こします。卵巣にできた子宮内膜も月経時には出血しますが、月経血として排出されないため、古い血液が卵巣内にたまり、チョコレート状の液体を含んだ嚢胞ができます。子宮内膜症自体を引き起こす原因はよくわかっていませんが、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜組織の一部が卵管から逆流して卵巣に達し、そこで生着・増殖するという説が有力です。他にも、卵巣や腹膜の上皮が変化して内膜になるという説、子宮内膜組織がリンパ管や血管から卵巣などに転移するという説、子宮内膜の幹細胞が卵巣などに移動して生着・増殖するという説など、さまざまな仮説が唱えられています。

症状

子宮内膜症の主な症状は痛みです。月経痛がひどく、月経のたびにだんだん悪化していくことが特徴です。進展すると月経時以外にも下腹部痛、腰痛、排便痛、性交痛などが出ることもあります。特にチョコレート嚢胞が破裂してしまうと、急激に非常に強い痛みが発生します。破裂後も再びチョコレート嚢胞を形成することが多く、感染症を合併するリスクも高まり、さらに悪化し、まれに悪性腫瘍となることもあります。また、子宮内膜症患者の30~50%が不妊症になるとされ、妊娠を望む場合は大きな問題となります。月経痛がひどくなってきた、月経時に便通異常や下血があるなどの症状に気づいたら、早めに産婦人科を受診してください。

検査・診断

まず、問診によって痛み、不正出血、嘔吐、便秘、不妊などの状態を詳しく聞き取り、子宮内膜症が疑われる場合は、内診による子宮、卵巣の触診や経腟超音波検査で病変の有無、大きさなどを確認します。チョコレート嚢胞は超音波検査で比較的容易に検出できますが、嚢胞内にかたまりのようなものがあるなど、悪性腫瘍の可能性がある場合は、MRIやCT、腫瘍マーカーなどの検査を行います。また、確定診断のために、おなかに小さな穴を開けて内視鏡を挿入し、病変を直接、視認する腹腔鏡検査を行う場合もあります。この場合、同時に手術を行うことが多くなっています。

治療

治療法には、大きく分けて薬物治療と手術があります。薬物治療は子宮内膜症全般で行われるものですが、痛みを抑える治療と子宮内膜症の進行を抑える治療があります。痛みに対しては鎮痛薬などが用いられます。進行抑制の治療ではさまざまなホルモン剤を用いて、内膜症組織の増殖を抑えるとともに痛みなどの症状を改善することが狙いです。チョコレート嚢胞では手術療法も考慮されます。嚢胞が大きい場合は破裂するリスクがあり、がん化する可能性もあるからです。手術を行う場合は、妊娠を望むか、望まないかで対応が分かれます。妊娠を望む場合は、卵巣の病巣のみを切除して正常な部分を温存する治療を行います。腹腔鏡手術で行うのが一般的です。また、卵巣温存手術をであっても手術によって卵巣機能が低下することに備え、体外受精などの生殖医療を優先することもあります。一方、将来的にも妊娠を望まない場合や病変の程度が高度な場合など、卵巣と子宮を全摘出する根治手術が行われることがあります。

予防/治療後の注意

チョコレート嚢胞は、まれにですが卵巣がんに進展することもあります。全体ではその確率は1%以下ですが、患者の年齢が高かったり、嚢胞が大きかったりするとリスクは高まります。定期的な受診と検査を継続してください。また、卵巣を温存して手術をした場合、再発する可能性がありますが、術後にホルモン療法を行うことで再発リスクを下げることができます。長期にわたる定期的な検査や薬による治療を継続してください。妊娠を望む場合は特に主治医とよく相談して治療法を選択することをお勧めします。

慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 教授 青木 大輔 先生

こちらの記事の監修医師

慶應義塾大学医学部産婦人科学教室

教授 青木 大輔 先生

1982年に慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学医学部産婦人科にて研修。1988年より2年間、アメリカのLa Jolla Cancer Research Foundation(現・Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute)で博士研究員として活躍。帰国後は国立東京第二病院(現・独立行政法人国立病院機構東京医療センター)にて研鑽を積んだ後、1991年より慶應義塾大学医学部産婦人科で助手・専任講師を務める。2005年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医などの資格を持つ婦人科疾患のスペシャリスト。