内田宙司整形外科 (横須賀市／逗子駅)
内田 宙司 院長の独自取材記事
2020年、横須賀市の湘南国際村に開院した「内田宙司整形外科」。三浦半島のほぼ真ん中に位置し、鎌倉市、逗子市、横須賀市、三浦市など幅広いエリアから患者が訪れる。院長の内田宙司先生は整形外科のエキスパートとして診療する傍ら、独学でデザインを学び、数々の作品を生み出してきた異色の経歴の持ち主だ。一歩中に入ると、遊び心あふれる意匠に思わず息をのむような同院の造りは、患者からの注目を集めている。「次は何をしようかと常にわくわくしています」と朗らかな笑顔で会う人を魅了する内田院長に、同院のこだわりについてじっくり聞いた。
デザイン・アートと医療のコラボレーション空間
まずは、開院までの経緯を教えてください。
僕は聖マリアンナ医科大学を卒業後、大学院で筋生理学を学びながら、整形外科のさまざまな症例や研究に携わってきました。その後、尊敬する先輩に誘われて整形外科クリニックを立ち上げたのです。「年中無休」というコンセプトもあり、大勢の患者さんが来てくださるようになりました。クリニックを建て替えても相変わらず待ち時間は長く、僕は朝から晩まで大忙し。中には待ちくたびれてしまう方もいて、申し訳ないと思うことが増えました。そこで思い描くようになったのが、患者さんにとってもスタッフにとっても「ここへ来て良かった」「また来たい」と思える、身も心も癒やされるクリニックでした。そんな中「この土地でなら」と思える場所と出会えたことで、「開院」という僕のチャレンジがスタートしたのです。
それで美術館のようなクリニックが生まれたのですね。
もともと僕は独学でグラフィックデザインを学んでいたので、「医療現場はデザインで変化する」と確信していました。デザインとアートと医療が相乗効果を生み出すクリニックを建てるのが夢だったんです。そこで働く人、集う人がわくわくするような空間にするため、土地選びからこだわって、やっと巡り合えたのが林も谷もあるこの場所です。院内に自然の光が降り注ぎ、窓の外に広がる林もデザインの一つとして捉えた開放的な空間は、訪れる人を優しく受け入れ癒やしてくれると思います。開院したてなので休日も何かとやることがあってここへ来ているのですが、僕にとっては苦になるどころか休みでも思わず来たくなる、とっておきの場所です。
装具に施すオリジナルデザインも好評だそうですね。
ケガをすると、思うように体を動かせず落ち込みますよね。何より痛いし、仕事や部活のことも大きな心配事です。でも、そんな時にギプスや松葉づえ、三角巾のデザインが良かったらちょっとテンションが上がりませんか。そんな思いで2013年に「Supporter展」という医療とデザインとアートの融合をテーマにしたイベントを開いたのですが、反響はとても大きかったですね。当院の待合室には、色やデザインにもこだわり抜いたつえや、緊急時は三角巾にもなるバッグなどを展示しています。本来、装具は隠すのではなく目立たせるもの。ファッションとして楽しめる上に、目立つことで必要な支援が受けやすくなると思います。優れたデザインには、医療現場を変える力があります。これからも、患者さんの気持ちを明るく前向きに変えていくようなデザインやアートにこだわった活動をしていきたいですね。
痛みに対処するだけでなく、再発しない体づくりを
幅広い診療に対応しているそうですね。
当院では、骨折や捻挫などの一般外傷から膝、腰、頸の痛み、四十肩、ヘルニア、関節リウマチ、小児整形、小児スポーツ障害など幅広く対応しています。でも患者さんが抱える痛みの原因はさまざまで、整形外科疾患ではないこともあります。慢性的な頭痛は頸椎の異常から生じる筋緊張が原因のことが多いですが、噛み合わせ等の歯科的な問題が原因のこともあります。ギックリ腰の原因は骨折、筋緊張、神経痛だけでなく悪性腫瘍、大動脈の解離の場合もあります。だからちゃんと診察しないとダメなんです。体重増加が影響する腰や膝の痛みがある方は、ダイエットのご指導をすると、高血圧や高脂血症も改善につながります。整形外科は全身の骨や筋肉、関節などの運動器を治療する領域です。全身の状態を改善しないと、なかなか効果は出ません。気になることがあれば、些細なことでも気軽に相談してください。
診療方針を教えてください。
整形外科の医師として僕がやるべきことは、まず痛みを取ること。外傷による痛みなのか、神経障害の痛みなのか、痛みを感じる機能障害なのか、原因によって痛みへのアプローチも変わります。痛みを取るためには正しい診断が不可欠です。僕は問診や視診だけでなく、患者さんの姿勢や生活様式、仕事、考え方、時には問診票に書かれた文字からもヒントを得て、原因を考えます。超音波検査やエックス線撮影も行いますが、できるだけ不要な検査はしないよう心がけています。もう一つ大切にしているのが、患者さん自身に病気を正しく理解していただくこと。例えば膝の痛みを訴える患者さんに「膝の関節がすり減っていますね」だけで済ますのではなく、痛みの原因が関節の中にあるのか外にあるのか、痛みを取り除くためにはどんな治療法があるのかなどをわかりやすく説明するようにしています。
痛みへの対処だけでなく、メンテナンスにも注力しているそうですね。
運動器疾患の難しいところは、薬を飲んで湿布をするだけではなかなか良くならないことです。当院では、長年のつらい痛みに対してハイドロリリースを行うことも珍しくありません。患者さんの悩みに対応できれば、医者としてはガッツポーズをしたくなりますね。しかし一時的に痛みが軽減しても、原因となる姿勢や運動などの生活習慣を改善しなければぶり返してしまいます。そうならないようサポートするのが、整形外科でありリハビリテーションなんです。われわれは、医師や看護師、助手、理学療法士などスタッフ全員が一つのチームとなり、患者さんのために結果を出すことに努めています。痛みがなくなるというゴールのため、身体評価から病歴、生活歴や考え方、性格まで考慮した独自のプログラムで、痛みが再発しない体づくりをめざします。
出会いを重ねながら、デザインしていくクリニック
そもそも先生はなぜ医師になろうと思ったのでしょうか。
僕は子どもの頃に腎臓を悪くして、死にかけたことがあるんです。その時、お世話になった先生との出会いが医師をめざすきっかけになりました。その先生は、質問に母が答えようとすると「お母さんには聞いていません」とぴしゃりと言うほど厳しい反面、空き時間に僕を院長室に招き入れて、「こんなの買ったんだよ」とお気に入りのモデルガンを見せてくれるお茶目な面もあって、通うのが楽しみでした。開院するにあたり、予算が足りず院長室は作れませんでしたが、診察室の隠し扉には僕のおもちゃを隠してあるんです（笑）。興味のありそうな方がいたら、こっそり見せています。患者さんが目を輝かせるのを見ると僕までうれしくなりますね。
今後の展望をお聞かせください。
「デザイン」という言葉の語源には「物事を改善する」という意味があります。建物が完成した今、これからできるのはより良いクリニックにしていくために、与えられた空間をデザインしていくこと。レイアウトを変えることもデザインだし、裏庭の林を整えて遊歩道を作ることや、別棟を建てて運動器センターを作りたいとイメージすることだってデザインです。もちろん、私一人でできることではなく、スタッフをはじめ、患者さんなどここへ訪れる人みんなでデザインしていくものだと思っています。良い出会いを重ねながら、みんなで「次は何をしようか」と、わくわくする気持ちでチャレンジを続けていきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
僕は患者さんに必ず「何が一番心配ですか」と聞くようにしています。いつから仕事や運動に復帰できるかを気にする人もいれば、がんかもしれないと不安を抱く方もいます。その方の悩みや不安は、ご本人にしかわかりません。きちんと確認して、できるだけ早くその不安を解消してあげるよう心がけています。僕は患者さんからたくさんのエネルギーを頂いてきたおかげで、医者としてここまで成長できたと思っています。「こんなクリニックがあるんだ」「こんな医者がいるんだ」「こんな変わり者がいるんだ」など、どんなことでも興味を持ってくださる方がいたら、まずは会ってお話ししましょう。何か響き合うものを感じてもらえたらとてもうれしいです。
